古賀史健がまとめた糸井重里のこと。

古賀史健がまとめた糸井重里のこと。 (ほぼ日文庫)

 糸井さんつながりで、こちらも面白かったです。

 

P51

 コピーライター養成講座に通いはじめてからは、力はないし、生意気ざかりだし、まったく問題外でしたね。これじゃダメだろう、と自分でもわかるものばかりを書いて。

 ・・・

 ・・・あるとき、それまでとは明らかに違うコピーがポンッとできちゃったんです。アサヒビールの「本生」という新商品についての課題で、ぼくはこんなコピーを書きました。

「本生には、贅沢をさせています。」

 これを黒須田伸次郎さん(代表作「ゴホン!といえば龍角散」)という先生が、すごくほめてくれてね。自分でもこれまでに書いてきたコピーと違っていることは、わかりました。・・・

 いまでもぼくはそうですよ。なにかのコピーができあがったときにようやく「あっ、書けた!」とわかる。曇りがとれるような感覚がある。いいコピーが出ていないうちには、どんなに数を書いても「書けた!」という実感がない。逆にいうと、「まだ書けていない」ということだけが、わかっている。

 だから、ぼくにとってはじめての「書けた!」は、あのアサヒビールの課題です。実際それからまわりの評価も変わってきましたし。

 ・・・

 もうひとつ、黒須田先生とはおかしな思い出があってね。講座を卒業してから何年か経ったあと、先生が持っていた授業の代役を頼まれたんです。「ぼくには教えることなんてできませんよ。話すことがなくなったら、どうすればいいんですか?」と訊いたら、黒須田先生は真顔で「しのげ」って言うんですよ。

「話すことがなくなったら、ずっと黙って立っていればいいんだよ。生徒との我慢くらべだ」

「ええっ⁉」

「黙ってしのげば、そのうち時間がきて終わるから」

 もうね、ひどいでしょ?でも、黒須田先生の「しのげ」は、その後の人生にものすごく役立ちましたね。たしかに、じたばたしてもしょうがない場面はいっぱいある。「しのげ」で乗り切るしかないことはたくさんある。だからみなさんにも、おすそ分けします。

 しのげ。いいから、しのげ。とにかく、しのげ。……いいおまじないでしょ?