一冊まるごと印象に残りましたが、その中からひとつ・・・
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糸井 全体的に、若くして何かを成している子たちって「とてつもなく」なってますね。石川遼くんを見ていても「どうしてその歳でそんなに」と思います。
黒柳 うん、うん。
糸井 しかも、嫌みがないの。
黒柳 そうそう、ぜんぜんないの。
糸井 昔だったらああいうこと言うやつってちょっとイヤな感じがしたでしょう。
黒柳 「小生意気」とかね。今の人たちにはそれがない。どうしてかというと、彼らはみんな、本心で発言してるからなんでしょう。誰のまねでもないから。
糸井 うん。一所懸命やるとああなるんでしょうね。
黒柳 きっとそうだと思います。
糸井 不良化させたらと思う人だってまわりにはいるでしょうね。
黒柳 たまにはねぇ……だけどまぁ、「人の上に立つ人は、この世の客に来たと思え」という言葉があるそうですから。頑張っていただいて。アメリカのあの、ゴルフなさる方は……。
糸井 ああ、はいはい。So many 愛人……がいて。
黒柳 でもまぁ、あれであの方も人間だということがわかってよかったって、おっしゃる方も多いのね。
糸井 そうですね。だから、そういうことはきっと、自然に何かなったときには、何かなるんでしょうね。
黒柳 うん。……すごい会話ね、「自然に何かなる」って。
観客 (笑)。
黒柳 いや、すごくわかるんですよ、そのことをわたしは。
糸井 何かなったときには、何かなるんでしょうね。
黒柳 ええ、何かなるんでしょうね。
観客 (笑)。
黒柳 人生ってそうでしょう。漠然としてね。
糸井 望んで悪いことをしたり、危ないほうに行ったりしても、それはそれで続かないですし。
黒柳 そう、そう。
糸井 望まないでやったことに対処することで自分が何かになっていくこと、多いですもんね。
黒柳 そうですよ。いろんな、思いがけない偶然にもぶつかったりしてね。「まえだまえだ」っていう漫才やる子どもたち、いるでしょ。お兄ちゃんは小学五年生、弟は小学三年生。
糸井 すっごい笑ってる子ね、下の子が。
黒柳 「徹子の部屋」に出てくれたんですけど、かわいかったですよ。・・・
・・・
弟のほうが「でもな、となりの席に来る子がな、好きやと思う子が来るときは、その期間がわりと短くて、そんなに好きやない子が来るときは長いねん」って言うのよ。「ああ、そうなの。そういうときさぁ、なんて人生だ、って思わない?」と、わたし、言ったんです。
糸井 ほお。
黒柳 そしたらね、「思わへん!」って言うのよ。「またいいこともあるやろ、それにな、人生なんてもんはな、もっと遠ーい、遠い、離れたことや」。
観客 (笑)。
糸井 すげぇ。
黒柳 「またいいこともあるやろ」と言ってました。
糸井 いいなぁ。
黒柳 そこでね、ふと思ってこう聞いたの。「あなたたちのお母さんって、どんな人?」そうしたら、彼らはこう答えました。「ここが、〝普通のお母さん〟っていう線があるやろ!」。
糸井 はい。
黒柳 「うちのお母ちゃんは、その線のとぉおおーり、の人や」。
糸井 へぇぇ!
黒柳 その表現力には、驚きました。すごいもんでしょう?・・・そして、番組の最後に、ふたりにお土産を用意してたんです、カブトムシのヘラクレスってやつ。
糸井 うん。ヘラクレスオオカブト。
黒柳 カブトムシが好きだと聞いていましたので、担当のスタッフが「プレゼントはヘラクレスですから」と用意してました。それで、わたしはスタジオに置くメモに、「お土産ヘラクレス」と書いておきました。タテ書きのくずし字です。ゲストの方が受賞した賞とか、舞台の名前とか本番中に間違えないように書いておくメモです。だけど、大人でも読めないくらいの字ですよ。「料理屋さんのメニューみたいですね」とよく言われる、そのくらいの字です。で、番組の最後に、「お土産にカブトムシあげます」と言ったら、「やっぱり、そやった!」って言うのよ。「そこんとこに書いてあったやろ」。
観客 (笑)
黒柳 その子たちの座ってる位置からはぜんぜん見えないような場所にあるメモなのにね。しかも、一度もそっちなんて見てなかったのよ。「お土産ヘラクレスって書いてあったやろ!けど、それを信じてもらえなかったら、悲しいさかいに、信じないでおこうと思った」。
糸井 うん(笑)。
黒柳 子どもって、ほんとに自分の見たいもんだけ見えるんだなぁって、感心しました。
観客 (笑)
黒柳 いらないものは見ない。見たいもんだけ見る。前歯が抜けていながら、「人生なんか遠いもんや」と言い切る、そういう感覚。
糸井 うん。
黒柳 子どもってこういうんだって思って、わたしすごく感動しちゃったんです。大人よりも、もっと大人。本質を見抜く力は、子どものほうがはっきりしてますね。