睡眠のお話

たけしの面白科学者図鑑 人間が一番の神秘だ! (新潮文庫)

 このシリーズの宇宙編が面白かったので、「人間が一番の神秘だ!」も読みました。

 こちらは睡眠の達人、三島和夫さんとの対談です。

 

P72

たけし さっき寝やすい時間帯は人によって違うという話が出ましたが、夜十時から深夜二時までが成長ホルモンが出るので、この時間帯に寝るといいとか言われていますけど。

 

三島 あれは間違っています。時刻に関係なく、深い睡眠の時に成長ホルモンは出ます。昼でも夜でも、深く寝さえすれば出るホルモンなんですよ。一般的に眠りはじめから三時間くらいに出やすいので深夜二時とかいう話になったんでしょうね。

 

たけし 何時に寝ようがいいわけですか。

 

三島 ええ、成長ホルモンに関してはそうです。でも、睡眠というのは、他にもさまざまな生体現象が体中で起きています。僕ら研究者は寝ているか起きているかを脳波で判断するのですが、昼寝をしても現象としては脳波の活動が落ちるだけなんです。僕らが夜に寝て、体を休めて翌日に耐えるためには、実は脳波活動が低下して睡眠状態になるだけでは不十分で、ほかの要素が絡んでいます。

 

たけし どういうことですか。

 

三島 夜だんだん遅くなって就寝時間が近づいてくると、例えばストレスホルモンで覚醒作用もある副腎皮質ホルモンの分泌量が落ちてくる。それから「今から夜だぞ」という合図を体に送るメラトニンというホルモンは寝る二時間前ぐらいから上がってくる。それから寝る一時間半ぐらい前からは、脳の温度が下がって、代謝も落ちてきて……というように、脳波活動の落ちる時間帯に合わせて、ほとんど全ての体の生理現象が連動して変化しています。眠りを支えるはずの生体機能が整っていない時間帯に薬を使って無理矢理脳波だけ睡眠状態にしても、全く体はリフレッシュしない。その極端な例が時差ボケです。時差ボケは先ほどお話しした体内時計に関係した不調です。・・・体内時計には親時計と子時計の二つがあります。そのうち親時計の役割をしているのが脳の視交叉上核です。子時計は体中の細胞や臓器にあって、体をリフレッシュするためのいろんな機能、例えば血圧とかホルモンとか眠気のリズムを担当します。海外に行って現地に着くと、親時計は翌日から現地時刻に合わせてしまいます。子時計のほうは、例えば体温は六日から二週間くらいで現地時刻に合うんですが、胃腸の消化機能とかは三十日ぐらいかけても現地時刻に合わない。親時計と子時計がみんなバラバラになってしまうので、体調がおかしくなって時差ボケが起こってしまうんですね。

 ・・・

たけし 体内時計も人によって違うわけですか。

 

三島 ・・・日本人の平均の周期は二十四時間十分で、人によってそれよりも長かったり短かったりします。・・・二十四時間に近い体内時計を持っている人ほど毎日苦労しなくても同じ時間に眠くなって、目覚ましなしでも起きられる。しかし、体内時計が長い人は気をつけないとどんどん夜更かしのほうへズレていってしまう。ですから、苦労しないでも早起きできる人がいる一方で、なんとかやりくりして体内時計を調整している人がいるわけです。

 

たけし なるほど、それで朝型のタイプと夜型のタイプに分かれるわけですね。

 

三島 普段から夜型の生活をしている人が「真の夜型」のタイプとは限りません。必要に迫られれば朝型に変えることができる人もいて、このような人は体内時計の周期を調べても必ずしも長くない。私は「なんちゃって夜型」と呼んでいます。真の夜型というのは、必要が生じても朝早く起きられず、一般的な生活スケジュールが出来ない人たちのことなんです。

 ・・・

たけし しかし、どうしてこんなにも人によって寝やすい時間帯が違ってきてしまうんですか。

 

三島 季節や地域によって日の入り・日の出の時刻も違うので、餌を取るための活動時間帯をフレキシブルにしておくことが、進化上も生き残りには大事だったのでしょう。体内時計に対する光の作用はユニークで、早朝から昼過ぎに光が目に入ると時刻が早まり朝型に、夕方から深夜に入ると時刻が遅れて夜型になります。午後と早朝で作用がスウィッチするんです。・・・

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 こんなに夜が明るいと、進化の段階では想定できなかったほどに体内時計が大きく狂ってしまう。朝型タイプや夜型タイプがあるのは生き残りに必要だった遊び部分だったと思うんです。・・・