辺境生物学の達人、長沼毅さんとのお話です。
炭素は宇宙では多いけど、地球上ではシリコンの方が多いって、面白いなぁと思いました。
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たけし 実際に宇宙に生物がいるかどうかは分からないけれど、この地球上の生物はすべて炭素を含む物質、つまり有機物で出来ているでしょう。宇宙に生物がいたとして、炭素を素にしない生命の系統というのもありえるわけですか。
長沼 あっていいですよね。炭素は使い勝手がいい元素ですけれども、別にほかの元素でもいいんじゃないかと思います。ケイ素を素にした化合物、つまりシリコンの生命体もあっていいんじゃないかと思います。
たけし そういえば、よくSFでもシリコン生命体というのが出てくるような気がしますね。
長沼 シリコンは炭素と性質がよく似ているんですよ。高校の化学の時間で勉強したと思うのですが、炭素原子には四本の腕があるでしょう。その四本の腕で、他の原子と結合する。シリコンも結合の腕が四本あって、他の原子と手をつなげるんです。ただ、炭素のほうが多種多様で複雑なものをつくりやすい。ケイ素だと、あまり複雑なものはつくれないんですね。
たけし おいらなんか、金人間がいいと思うんですけど。酸化もしない、形も全然変わらない……。
長沼 面白い発想ですね(笑)。今、シリコンと言ったのは、もう一つ理由があって、地球の表面で最も多いのが酸素とシリコンです。それで、地球上でもシリコンを使った生命もあっても良かろうと。炭素なんで逆に地球上では少なくて、何で生命はわざわざこれを使ったのだろうと思うんです。
たけし 炭素は、そんなに多くないんですか。
長沼 宇宙では多いですよ。宇宙では多いんだけれども、地球の表面ではシリコンのほうが多いです。
たけし やっぱり金人間はダメかな(笑)。
長沼 宇宙人を考えるときに、どこまでイマジネーションを広げられるかというのが我々の問題なんです。あるテレビ番組で、アメリカの研究者と我々が競争したことがあるけれども、発想の幅の広さでは、我々のほうが進んでいるかもしれない。彼らの発想は、よくある宇宙人の格好ばかりなんです。
たけし 手二本、足二本みたいな人間型が多いんですか。
長沼 ええ、そんなのが多いでしょうね。
たけし 脳だけの宇宙人という発想はないんですか。脳があって、その周りは全部機械で、脳が指令だけを出している。
長沼 そんなのが、あってもいいと思います。脳だけというのは、結構私の理想なんですけれども(笑)。
たけし でも、物体を捉える目だけは必要でしょう。
長沼 ええ。目の代わりに、カメラでいいんですけれども。
たけし SFなんかでは、脳だけという考え方よりももっと進んで、意識だけで体を持つ必要がないという考え方もあったりする。そうなると、生きている意味は分からない。
長沼 意識は実は不思議な問題です。ちょっと今すぐには答えが出ないですけれども……。ただ我々が生物としてここまで達した。これによって我々は生命のことを考えたり、宇宙のことを考えたりするようになった。これは宇宙にしてみたら嬉しいことなのかなと思うんですよ。宇宙の内部に、変なものが生まれて、自分のことを考えてくれているというのは。
たけし おいらたちがいないと、宇宙は気づいてもらえないわけだ。だから、宇宙には人間が必要だと……。
長沼 この宇宙においては、実を言うと、生命なんかなくても全然困らない。でも、〝わざわざある〟と思うんです。そこが不思議なところです。天文学者がよく、この宇宙のあちこちに生命があってもいいと言うんですけれども、私たち生物学者はあんまりそうは言わない。生物学者は、生命は奇跡的な存在だと思っているんですよ。奇跡であれ普通であれ、この宇宙には、生命という不思議な現象がある。しかも、その生命は意識も持っているんですから。この宇宙はそんなものがなくても痛くも痒くもないのに、どうして様々な生命や私たち人類がいるんだろうかと思うんです。