記憶しやすい時間帯

羽生善治 闘う頭脳 (文春文庫)

脳科学者の池谷裕二さんとの対談の中で、記憶しやすい時間帯の話がありました。

 

P59

羽生 記憶というのは寝る前に復習すると残りやすいと聞いたことがありますが、本当ですか。

池谷 ええ。特に寝る1~2時間前が記憶に定着しやすいんです。私は「ゴールデン・アワー」と呼んでいて、毎日この時間帯に仕事をするようにしています。

 時間帯の話で言えば、お腹が空いている時の記憶力はバカにできません。空腹になると胃から脳の食欲中枢へグレリンというホルモンが出るのですが、これが記憶を司る海馬も刺激し、記憶力を上げることがわかってしました。これは動物本来の姿を考えればある意味当たり前です。空腹時には、食料の在り処や獲物の動きなどを覚えてなければならないですからね。

 あと水は重要ですよ。体から水分が1%減ると、実は記憶力や思考力が低下するんです。

 

P82

 ・・・本当に大切なデータで、正確に覚えておかなければならない時には、ただパソコンの画面で見るだけではなく、盤と駒を出してきて実際に並べてみるとか、ノートに付けるとか、誰かに話すとかしています。つまり、大切なのは五感を使うということなのではないかと思っています。人間はやはり視覚から入って来る情報が非常に大きな部分を占めているので、それは非常に便利なのですが、簡単に入ってきたものは簡単に忘れてしまいます。そこで手を使うとか、耳を使うとか、口を使うとか、何でも良いのですが、五感を駆使することで記憶は長きにわたって残り、継続するのではないかと思います。

 それから記憶することと思いだすことは少しちがうのではないでしょうか。いわゆる丸暗記で単純に覚えたものは、忘れてしまうともう二度と思いだせず、記憶を復元することはできません。理解が深いもの、理解度が高いものに関しては、たとえ忘れてしまっていても短い時間に思い出すことができるので、記憶するに当たっては理解度を高めておくことが大事なのではないかと思っています。