別に理由なんてない

たけしの面白科学者図鑑 地球も宇宙も謎だらけ! (新潮文庫)

 

 こちらは地球微生物学の達人、高井研さんとのお話です。

 進化は基本的に結果論でしかない、というところ、面白いなあと思いました。

 

P115

たけし ・・・基本的なことを伺うようだけど、そもそも生命の定義はどうなっているんですか。

 

高井 「生命の定義」については、学者の中でも全然共通認識がないんです。一応NASAがきちんと定義しています。なぜならば、NASAの最終目標が宇宙で生命を見つけることなので、探すものの定義を決めないと探せないからなんです。その定義とは「生命とは、ダーウィン進化を受けることが可能な、自己保存的な化学系である」というもの。ダーウィン進化、つまり受け継がれる変異が起きてそれが選択されること、エネルギーを取り込んで自分自身を維持すること、自分をコピー(自己複製)すること、が可能な化学反応のシステムを「生命」と呼びましょうということです。いかんせん抽象的な話ですから、頭ではなんとなく理解できても、「じゃあどれが生命だよ」と言われるとピンとこない。

 ・・・

たけし ところで、高井さんは自らの説を証明するために、深海まで潜って証拠を集めている。それは分かるんだけど、海底を掘削までしているでしょう。あれはなぜですか。

 

高井 ・・・四十億年前と同じ環境を知りたかったら、酸素に毒された海底ではダメで、酸素がない海底の下まで行かないといけない。

 

たけし そこに酸素のない時代に生息していた微生物がいるだろうと考えているわけですか。

 

高井 はい。いろんな人が「海底の下に、四十億年前の環境で生息していたのと同じ微生物がいるだろう」と言っているのですが、誰も見たことがない。僕は熱水噴出孔のような高温の環境でメタン菌が誕生したと考えているのですが、メタン菌は酸素に弱くて、酸素に触れると死んでしまう。ですから、海底の下を掘って酸素がない状態でメタン菌を見つけて、直接証明することも重要だろうと思っているんです。

 

たけし それで見つかったんですか。

 

高井 うまくいってない(笑)。・・・海底のすぐ下に熱水の層があるので、微生物にとってちょうどいい温度帯が思った以上にないんです。・・・一箇所だけインド洋の熱水噴出孔で、メタン菌が一次生産者である生態系を見つけました。・・・

 

たけし ・・・生命って、熱水噴出孔でいきなり誕生したんですかね。

 

高井 いきなりじゃないんです。徐々にです。例えば、ある有機物の塊が二、三個の化学反応を起こしていても、それは生命とは言えない。それが四個、五個と複雑になっていって、徐々に複雑性を増していく。そして、あるとき僕たちは生命と非生命の境界を越えるんです。実は、この境界がなんなのか、生命と非生命がどこで分かれるのかと言われると、誰も答えられない。ただ、考え方には二つあって、ひとつは僕たちが生まれたのは、ワンチャンスでその境界を越えたというもの。もうひとつは、越えては失敗して滅びることを繰り返す中で、ある時にそれを大きく越えた生命が今まで続いたというもの。これもどちらなのかは決着がついてないんです。

 

たけし ・・・人類もネアンデルタールとクロマニョンがいたけれど、ネアンデルタールが滅ぼされてクロマニョンが残ったようなものだ。

 

高井 ただ、何が生き残ったのかは必然ではなくて、結果論なんです。進化は基本的にすべて結果論でしかない。もう一度同じように生命が誕生しても同じ道をたどるとは限りません。

 

たけし この対談でも、シマウマの縞は必然でそうなったのではなく、たまたまだという話をしたばかりです。・・・

 

高井 シマウマの縞も進化の必然性があったわけじゃないかもしれない。たまたまであって別に理由なんてないんですよ。