ブックデザイナーの祖父江慎さんのお話、もっと聞きたくなりました。
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祖父江 お待たせして、すみませんでした。
―こちらこそ、お忙しいところ、お時間いただきまして。
祖父江 おならプ~。入ってないか。
―入ってます。
祖父江 入ってますか。
―はい。
祖父江 おならプ~。
―また(笑)。ありがとうございます。
祖父江 おならプ~から、はじめましょう。
―クリエイティブな職業における「センス」についてのお悩みです。永遠のテーマ的なものかも知れませんが……。
・・・
祖父江 きっと「センスがある」という状態って、「ない」と思ったほうがいいんですよ。少なくとも、いいとか悪いとかで測れるようなものではないですし。
―「センスというものは、ない」。
祖父江 はい。ない。センスがないよーって悩んでるなら、まずは「言葉」を忘れたらどうですか。
―言葉を、忘れる?
祖父江 何かを考えるとき、つい「こうこうこうだから、こうだよね?」って、やっちゃいがちでしょ。
―はい、がちですね。既存の枠に収めちゃうみたいな意味ですよね。
祖父江 そう。何かものを見るときも「はいはい、これは本ですね」とか「ああ、いつものコップね」とか。
―ええ。
祖父江 そういうことを、なるべくしない。まず言葉を忘れちゃえばいいのかも。
―そうすると、どうなりますか。
祖父江 うん、言葉を忘れると、それまでの「慣れ」の思考パターンから逃れられます。ついつい「自分のなじみの場所」へは戻らないためにも、まずは「言葉」を忘れて、何にでもときめいちゃえばいいですよ。一般に「センス」と呼ばれてるようなものについては、そのあたりのことが大事だと思う。
―言葉にとらわれてしまうのが、よくない。
祖父江 それと、もうひとつ大事なのは「呑気になること」かな~。
―ははあ、呑気。それはいいですねえ。
祖父江 ようするに、心配しすぎないことでしょ。心配って、その人を、論理的に追い込んでいくようなところがあるので。
―「こうこうこうだから、ダメなのである!」……と。
祖父江 そう。何でも根拠づけたり体系づけたりしないと、不安になっちゃう。で、不安になると「いつものなじみの場所」に戻ろうとしちゃう。
・・・
いつもと同じだから安心って思うのって、よくないですね。そうじゃなくて「知らないところに連れてって~♡」のほうがいいんです。自信を持って、ときめくといいですよ。
―祖父江さんは「さらわれたい」と。
祖父江 うん、さらわれたい。そのためには、フットワークを軽くする。この身の安全をやたらに考えない。呑気になる。センスを磨く……みたいなことがあるとすれば、それはいろんな心配に「鈍感になること」かもしれないですね。
・・・
―これは本筋から離れるかもしれないんですが、いま、真っ白いところに文字がポンと載ってるデザインの本って、すごく多いじゃないですか。
祖父江 ええ。
―そういう本がたくさんあるのを知っていて、なぜ、わざわざ同じようなデザインにするのか不思議なんです。素人としては。
祖父江 現代っていうのは、「安心」にお金を払う時代だからですよね。
―なるほど、あれは「中身については、安心ですよ」と言っていて、ぼくらは、その「安心感」を買っている。
祖父江 これは時代によって変わるんですけど、過去には「まだ見ぬものに対する期待」や「ワクワク感」に、お金を出していた時代もありました。今は、SNSの発達もあって、社会の不安がふくらみやすくなっているし、みんな未知のものにではなく、よく目にする「安心」に、お金を使ってくれるからかもしれません。
―その点、祖父江さんの会社の、ものをつくるときの指針って、なんですか。
祖父江 うちは、ま、だいたいにおいて「どっちもアリかな?」と思ったら「安全ではないほう」を選ぶようにしてます。危ないほう。
―安全と危険って、どういう……いろんな意味があると思いますけど。
祖父江 えらい人の会議に通りやすいとか、製造上の問題が起こらなそうだとか。
―……を、選ばない。
祖父江 うん、どっちもアリだったら、そうじゃなくってワクワクするほうを選びます。で、「これ、危ないかも~」ってほうを選ぶと、最終的にはだいたい「いいもの」になるんです。
―それは、経験的なものですか。
祖父江 趣味かもしれない。もともと「うまくいかないもの」に対してワクワクしちゃう性格だからかも。
・・・
やっぱり、世の中、完全に理解しきれることなんてないと思うんだけど、みーんな「わかった気持ち」になりたいんだよね。
―そこで競争している感じはありますよね。こっちのほうが安全ですよとか、実は、誰にもわからないことなのに。
祖父江 だから、「不安」なんか気にしないこと。おなじみの場所に、しがみつかないこと。そして自分に嘘つかないこと。です。
・・・
あと、物語とかストーリーというものを、盲目的にありがたがらないことも重要だと思います。
・・・
映画でも、小説でも、テレビドラマでも……もっといえば「聖書」みたいなものでもいいんだけど、コタツでおならプ~している場面とか削ぎ落としがちですよね。
―それは、そうでしょうね。はい(笑)。
祖父江 で、意味のある場面だけをつなげて、ひとつの流れに乗せていきますよね。それが物語というものだし、そうすることによって、記憶されやすくなったり、広く伝わっていったり、おもしろがられたりするわけですけど。
・・・
でも、本当は、そういう「物語」のような構造を理想と考えて、むりやり人生を「編集」しようと焦る必要はないと思うんです。ブツブツ切れ切れで、首尾一貫性のない「今」こそ、ときめきの連続なんだから。
―意味やつながりがなくても、平気な顔をしていりゃあいいと。
祖父江 そう。「人生」なんてものも、もともと「ない」んですよ~。
―「センス」が、もともと「ない」ように。
祖父江 そうそう。おなら、プ~。