「農業新時代」「農業フロンティア」が面白かったので、川内イオさんの本を他にも探してみました。
こちらもものすごく興味深く、ぐんぐん一気読みしてしまいました。
魅力的な方ばかり出てきます。
P6
Googleで「ニッチ」と検索してみると、・・・「潜在的な需要がありながら、これまで誰も手を付けずに隙間になっていたような分野や市場」と書かれていた。ウルトラニッチは、隙間というよりも、「砂に埋もれた遺跡の発掘作業」のイメージに近い。
・・・
・・・この本の登場者はそれぞれの想いを胸に、少しずつアイデアを形にしてゆく。「そんなの売れないよ」「もうやめたら?」という周囲の声をものともせず、地道に手を動かし、何度も失敗を重ねた末に、ようやく姿を現すプロダクト。それは、なににも似ていない個性やこれまでにない性能を備えていて、「こんな視点があったのか!」と世の中を驚かせ、「こんな商品が欲しかった!」とユーザーを喜ばせる。
かつて、モノづくり界の比類なき巨人、スティーブ・ジョブズはこういった。
「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分はなにが欲しいのかわからない」
そう、自分を信じて突き進んだ作り手が、誰も気づいていなかったニーズを掘り起こしたプロダクト、それがウルトラニッチだ。
・・・登場者の一部を簡単に紹介しよう。
ある女性は、フリーターをしながら自宅で細々と木工作品を作っていた。初めての展示会でたまたま木のスプーンを出品したのを機に、ある日、スプーンだけ作って生きていこうと腹をくくる。日本にひとりのスプーン作家の誕生だ。
彼女のスプーンには、用途がある。アイスクリーム用、スープ用、スイーツ用などなど。彼女のアイデアによって、「スプーンを用途で使い分ける」という意外なニーズが生まれ、自宅用、プレゼント用とよく売れた。
ただ、独立して数年は苦しい生活を送った。いくらでどれだけ売れるのか予想もつかず、安くしすぎたのだ。家賃が払えなくて親に泣きついたこともある。これでは生きていけないと思い切って値上げをしたら、変わらず売れた。今や、展示の予定が1年先まで埋まる売れっ子作家だ。
ある女性は、自ら「ワーキングプアだった」と語るシングルマザー。生まれ育った青森でグラフィックデザイナーをしていたが、年収200万円ほどで、娘ひとりを育てるのに必死の毎日だった。
子どもの頃から絵を描くのが好きだった彼女は、ふと「野菜の色でクレヨンが作れないかしら?」と思いつく。その話をあちことでしていたら、応援してくれる人たちが現れた。最初に自分で作ってみた時、参考にしたのはYouTube。
それから人生が急速に動き出し、専門家の力を借りながら、廃棄野菜を使った「おやさいクレヨン」が誕生する。これが国内外で15万セットを売る大ヒット商品になった。
ある男性は、義肢装具士として働いていた時、ふとしたきっかけで背骨を骨折した犬のために人間用の知識を応用して義肢装具を作った。それから、「特に動物好きでもない」のに、ひとりで動物専用の義肢装具を作るようになる。
なんのあてもないまま独立して、最初の半年はひと月の売り上げが1,2万円。年に一度、妻と一緒に居酒屋で飲むのが最高の贅沢だった。
獣医師の学会に出展して、バカにされたこともある。それでも「求める人がいるはず」と作り続けていたら、少しずつその効果が認められるようになっていった。今では年間3000件の注文を受け、たくさんの動物たちを救っている。
イメージが伝わっただろうか?ウルトラニッチのモノづくりは、とても孤独だ。報われるかどうかもわからない。でも、裏を返せばチャンスと考えられないか?・・・
・・・この本のサブタイトルは、「小さな発見から始まるモノづくりのヒント」。読者の参考になるように、登場者たちの発見の過程や金銭事情、どんな壁があったか、どういう人の助けを借りて、どう突破してきたのか、できる限り具体的に記した。登場者たちが講じた策、何度も下してきた決断、そして失敗が、なにかしらの刺激やヒントになれば嬉しい。
P248
・・・本書が紹介するウルトラニッチの起業家は「仕事や商売の本質」も教えてくれています。・・・
動物の義肢装具をつくっている島田さんの仕事は、「動物用の義肢を必要としてくれる飼い主・獣医師が確実にいる」という確信に支えられています。菊野さんも、最初は完璧な時計を求めていましたが、ある時に、そんなものはないと気づきます。お客さんと相談しながらその人のためにつくりあげた時計を喜んでもらうことが最大の喜びだと言います。森さんは、試行錯誤を経て、人間にとってもっとも大切なのは幸せであり、笑顔であることに行き着いています。朴さんは就活に物足りなさを感じて目の前で困っている人を救いたいと思い至ります。亀山さんの言葉は示唆的です。マウスピースをつくること自体はそう難しくない。クライアントが希望するマウスピースをつくるのが難しいのです。
自分以外の誰かに喜んでもらうことを一義的な目的にする―これは道徳や倫理の話しではありません。他者に喜んでもらう、他者に貢献することが自分にとってもいちばんうれしいというのは人間の本性です。本性だから無理がない。・・・
これは・・・渋沢栄一の「論語と算盤」にも通じる話です。商売の本質は自分以外の誰かの役に立つことにあるからこそ、渋沢は「道徳的であればあるほど結局いちばん儲かる」という原理原則に到達したのです。・・・