自分たちの都合ではなく、「相手のメリット」を考える・・・とても大事なことでした。
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直接的に人からお金を集めて、それを社会的な弱者の支援に使う活動が「寄付」ですが、寄付を集める能力は、ビジネスでお金を集める能力と基本的に同じです。
私も以前、コンサルタントをしていたときに、営業力を身につけさせる研修の一環で、ある企業の社員に街頭募金活動をしてもらったことがありました。
それは「自分とまったく関係がない人に、お願いをして募金をしてもらう。営業としてこれほど高いハードルはない」と考えたからです。
ちょうどその頃、アフガニスタンの子どもたちを支援する活動をユニセフが始めていたので、私たちもそのキャンペーンに協力することにしました。
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私たちは、どうすれば見ず知らずの人に「アフガニスタンの子どもたちのために募金してもいいかな」と思ってもらえるか、みんなで考えました。
討議した結果、出てきたのが「小銭で救える命がある」というコピーです。
「〇〇円で小児用ワクチンが1本」「〇〇円で子どもひとりの1カ月分の食事」といったように、どれだけのお金を募金することで、どんな良いことが途上国の子どもたちにもたらされるのか、それを具体的な金額として明示したのです。
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ポケットにある小銭を募金するだけで、子どもの命を救うことができる。世の中を変えることができる。その「効果」をいかに実感してもらうかが、重要でした。
この事例のように、「いくらで何ができるのか」と値段を示すことは、大きな効果があります。
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人は漠然としたものにはお金を払いません。一方で、具体的に「メリット」が実感できる提案には、お金を払ってくれます。
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どんなに素晴らしい夢や希望を語ったところで、相手に対して具体的なメリットを提示できなければ、人を動かすことはむずかしい―少しドライに聞こえるかもしれませんが、そのことをよく覚えておいてほしいと思います。
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・・・どんなオファーだったら「投資してみよう」と考えるかといえば、話は簡単です。そのベンチャーが世に送り出そうとしている商品やサービスが、いつか多くの人に必要とされる日が来るか(長期的なロマン)。また、事業がスタートしてから、きちんとビジネスとして回っていくか(短期的なソロバン)。
この2点の視点になります。
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「面白いことをやっていれば、お金はあとからついてくる」というセリフをよく聞きますが、そう考える人は、自分自身のロマンばかりに目がいって、他人のソロバンを軽視しています。
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私が・・・あえて「お金」についての話をするのは、若い人はロマンが先行して、ソロバンを後回しにしがちだからです。
「面白いこと、価値のあること、自分が満足することさえしていればいい」
そう考える人がいかに多いことか。
そうではなく、むしろ若いうちは、ロマンよりソロバンを優先させたほうがいい。
・・・なぜかといえば、・・・ロマンだけの仕事というのは、それに取り組む人に、心理学的に「認知的不協和」と呼ばれる状況をもたらしやすくなります。
ある心理学者が、2つのグループに社会奉仕活動をしてもらい、片方には報酬を払い、片方には無報酬で働いてもらうという実験を行いました。そして作業の終了後、「この活動には社会的な意味があったと思うか?」という質問をすると、如実に無報酬で仕事にあたったグループのほうが「意味があった」と考えていることがわかったのです。
・・・「これには意味があった」と思い込むことで、精神的にバランスをとろうとするわけです。
・・・一度、認知的不協和が生じてしまうと、明らかに誤った方向に進んでいたとしても、それを修正しようという考え、そして行動が生まれてこないことも、大きな問題です。
苦しい状況に陥っているのに、「自分がやっていることは間違っていないんだ」と思い込み、他に都合の良い考えをでっちあげてしまう。
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夢や理念といったものが、問題の本質から目を逸らさせてしまうことがよくあるのです。