変わらなくていい、新しい普通をつくる

ガチガチの世界をゆるめる

 読めば読むほど、素晴らしいなぁと思います。

 

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 ぼくはスポーツと同じくらい「立食パーティー」があまり得意ではありません(というか、好きと言う人に今まで会ったことがないのですが……)。

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 立食パーティーが立食パーティーである理由、それはやはり参加者の流動性ですよね。人や情報の流動性が生まれることによって、いろんなチャンスと巡り合う確率が上がる。じゃあ、その立食パーティーの本質的な要素を満たした上で、他の部分をゆるめていきましょう。

 立食パーティーのどこがゆるくないのか。スポーツの例であげたように、「非ゆる」の細分化を行います。すると、ぼくが立食パーティーが苦手な理由は大きく2つあることがわかりました。

◎居場所を見つけるのが苦手

◎話が盛り上がっているときに、みんなが名刺交換を求めてくるのがイヤ

 ということです。では、それを払拭するための新しい作法は何だろうか?ということを考えます。

 居場所を見つけるのが面倒なら、居場所が指定されている立食パーティーはどうだろうか?とか、名刺交換がイヤなら、名刺の持ち込み禁止にしたらどうだろうか?とか、そういう発想から始めていきます。

 また、頭で考えるのではなく、次は、情景を描くんです。目を閉じて、立食パーティーの情景を具体的に思い浮かべてみてください。

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 たとえばぼくの場合、立食パーティーのどこにいていいのかわからない、どこにいても居心地が悪い、もう帰りたい。だけど、居場所を固定してしまうと、立食パーティーの必然性がなくなってしまいますよね。このジレンマをどう解いていくか。

 こうやって、ゆるめる範囲を狭めていくんです。

 たとえば新しいテーブルをつくってみたらどうでしょうか。・・・

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 ゆるライズで最後に大事なのが、キャッチ―なネーミングに落とし込むことです(ゆるスポーツと同じように)。・・・

 たとえばテーブルがゆっくり動く立食パーティーだったら、「大陸移動型立食パーティー」みたいな、POPなネーミングに落とし込むのです。「『大陸移動型立食パーティー』を開催します」と言われたら、「何それ?」となりますよね。そこで情報の伝達速度が上がります。そこまで考え抜いて、ようやく物事はゆるまるんです。

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大陸移動型立食パーティーの参加者は、コミュ力を上げたり、ポジション合戦をしなくていいです。みなさんはそのままで、机の方が移動しますから」という話です。これがポイントですね。

「立食パーティー弱者」なんて言葉はありませんが、ぼくのような思いを抱えている人は確実に存在します。そこで、弱者は弱者のままで何も変わらなくていい、その上で環境を変えて「新しい普通」をつくる、というアプローチがゆるライゼーションです。

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 今の日本は、水が合っていない魚が社会にいっぱいいる状態だと思います。ぼくがやっているのは、魚を変えるのではなく、新しい水をつくって注ぐ、それだけなんです。水をつくるというのも別に大げさなことではなくて、自分のための水を自分でつくるくらいのことなら、誰でもできます。

 ぼくも最初はそうでした。「スポーツ弱者」であるぼく自身と息子のために、新しいスポーツという池をつくったんです。そしたら「おお、その池気持ち良さそうだね」と、みんなが集まってきてくれて、大きな流れになっている。

 

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 ちなみに、ゆるの漢字といえば何だと思いますか?やっぱり「緩」でしょうか?はい、もちろん正解です。でも、ぼくの中にある「ゆる」は別の漢字でも表せます。

 たとえば「許」。ゆるスポーツは、「許スポーツ」とも言えます。他者のミスに目くじらを立てたり、完璧なプレイを求めるのはやめましょう、「他者を許すという前提でスポーツしませんか」という思想がゆるスポーツには含まれています。・・・

 あとは「聴」です。「聴す」と書いて「ゆるす」と読むのは知っていますか?これ、「聞き入れてゆるす」ということなんです。・・・ゆるスポーツは、弱者の言葉を聴くことから始まるんです。だから「ゆるスポーツ」は「聴スポーツ」でもあります。

 古くから「一張一弛」という言葉がありますが、物事というのは、張ったり緩めたり、やっぱり緩急が大事なんです。今は、社会全体に緊張感がピーンと張っています。ちょっとした刺激で割れてしまいそうな風船状態になっているので、だからこそ意識的に弛緩させる試みがもっと増えないと、社会が壊れてしまうんじゃないかと思います。ゆるは救世主なのです。