人生の疑問に答えます

養老孟司・太田光 人生の疑問に答えます (新潮文庫)

 養老孟司さんと太田光さんが人生相談に答える本、面白かったです。

 ここは養老さんのコメントです。

 

P47

 今の人は、何か「一般的な評価の基準」がどこかにあると思っているんでしょうが、それはありません。つまり、評価とは評価する人の基準で判断するものなのです。

 僕の例でいうと、10年以上にわたって本を書いていますが、売れる本もあれば売れない本もあります。しかし、本を書いているときに評価されるとか、評価されないなんてことは考えていません。

 評価される、されないということは私の考えていることとは関係のないことです。評価は、ほかの人がやることであって自分が考えることではありません。今の人は、そこのところがものすごくごちゃごちゃになっているように思うんです。

 自分ではその評価が間違っていると思っても、それが評価した人の結論だと受け止めるしかありません。仮にその評価が間違ったものであれば、間違った評価に対する責任は評価した人にあるのであって、された人に責任があるわけではありません。僕はそう思っているんです。僕もいろんなことを言われてきましたけれど、別に気にしてません。言うのは自由なんですからね。それよりも、いろいろな評価に対する自分をどう作っていくのかが大変なんです。

 僕から言わせれば今の人たちは、他人の顔を見過ぎですよ。

 昔の人なら、評価ばかりを気にする人が多い今の現状を見たら、「黙って自分のやることをやれ」と言うと思いますよ。実は、僕自身、人にどう思われるかを気にするタイプだったんですよ。しかし、そのときに注意されていたことは、「そんなことを考えている暇があったら黙って働け」ということだったんですね。

 そうやって自分が何かをこつこつ積んでいけば、それがひとりでに自分の自信になり、人の言うことそのものが自然と気にならなくなるという意味だったんだと思います。人の言うことを気にしていること自体、ギリギリまで何かに取り組んでいる状態ではありませんし、ギリギリのところまでやっていれば、そんなことは耳に入らないし、考える余裕なんてないんです。