喜んでもらえる喜び

一流の本質~20人の星を獲ったシェフたちの仕事論

 こちらは大阪の和食店「ながほり」の中村重男さん。やはり人の大切さが語られていました。

 

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 店の経営で大変なのは、なんといっても「人」。何十年も続けてきたスタッフが、他のスタッフともめて辞めてしまったこともありましたし、人間関係が一番難しいと思います。

 でも一方で、この店で修行して独立した子もいます。

 以前、そのうちの一人の店に行ったら「この店、まるで『ながほり』と一緒やん!」というものができあがっていて(笑)。僕が野菜の仕入れ先も、酒も、メニューも、全部そのまま使ってもええで~っていうふうにしてるからね。でも、そうして頑張っているのを見ると、なんとも言えず嬉しく思います。

 仕入れ先やメニューは自分の財産でもあると思うのですが、次の世代に伝えたいという気持ちが強いから、僕は全部教えてしまうんです。なんでも自由に使ったらええ。

 自分も常に進化してるので、どれだけ弟子にあげても、カスカスにはならない。もっと旨いもんがこの世にはなんぼでもある!そしてそれを知りたいという気持ちはまだまだなくならないんです。

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 この仕事は、お金儲けしたいだけでは絶対続きません。だからお金儲けしたいだけなら辞めた方がいい。なによりも、お客さんに喜んでもらえる、感動してもらえるという、大きな喜びがあるわけですから、そこに価値を見出せないと務まりません。最近は「忘己利他」という言葉を大切にしています。自分のことは忘れて他人の喜びに力を尽くそう、というような意味なんですが、そのくらいの気持がないとできないんです。

 最近はみんな自分のことばかりを考え過ぎてるんじゃないかなと思いますし、それが戦争や紛争にまでつながっているような気がします。

 おいしい料理をつくって、お客さんに喜んでもらえるこの仕事は「聖職」やと思っていますし、こんなふうに人に喜んでもらえる尊い仕事はない。お金とか評価は、結果として後からついてくるんじゃないかなと思います。