希望のしくみ

希望のしくみ (宝島SUGOI文庫)

アルボムッレ・スマナサーラさんと養老孟司さんの対談本を読みました。
極端に感じるところもあったものの、色々思考が広がりました。
ここは、わからないのが当たり前、という話です。

P53
―「何も決めるな。答えをいま出す必要はないんだ」とおっしゃいましたが、人間はわからないことを抱えていると、不快じゃないですか?

スマナサーラ 確かにわからないとイライラしますけど、それが嫌なら調べればいい。なにも考えることを放棄して、人から与えられる答えに飛びつくことはないでしょう。

養老 大学にいたら、「わからない」という状態が当たり前です。わからないから研究しているんだから(笑)。つまり、わからないのを楽しんでいるわけですよ。
 だからむしろ、わからないのがつらい、ということがわからないですね。僕には問題を抱えているということは楽しみなわけです。いずれわかるかもしれないから。で、なぜそう思えなくなっちゃったのか、ということのほうが問題。

―先生は「なんでそんなに丸めちゃうんだ?」という言い方をなさっていますね。

養老 そうそう。皆、大急ぎで答えを出しているんですよ。

―問題とちゃんと向き合って解決しようとしない、と?

養老 いや、もともと若い人には、そういうところがあるんです。明治の時代に華厳の滝に飛び込んだ藤村操がそうでしょう?「万有の真相は唯一言にして悉す 曰く不可解」と言った人。でも、一八かそこらでわからないのは当たり前でね。むしろ「わからないのが当たり前」という教育をしていないのが問題なんですよ。
 なにしろ教科書に答えの出ない問題を載せようとすると、先生が断るんだから。「嫌だ」って言うんです。「答えのないことは教えられない」って。
 ・・・
 いまの教育現場では、方法論を教えないということです。包丁の使い方を教えないでしょう?
 でも実社会では、切るものがあらかじめ決まっているわけじゃないんだから、それでは困る。きょうはトマトを切るのかナスビを切るのか、わからないんですよ。だから本来、切り方を教えるのが教育でしょう?
 ・・・
 でもね、「わかってない」のは、ただの「状態」なんですよね。それで、自分でわかっていくのが楽しいんです。・・・教えてもらった答えに価値なんかないですよ。
 だから、入学試験の価値観なんかにも通じるんだけど、「できたほうが偉い」っていうのは大間違い(笑)。そんなの、人間の価値とは関係ないんですよ。できようが、できまいが、たんなる状態の違いでしかないんだから。
 できるやつと、できないやつがいるというのは、当たり前の話。そんなの一〇〇メートル走らせたら、すぐわかります。速いやつも、遅いやつもいるわけですよ。・・・