近いほど思いは伝わらない?

養老孟司・太田光 人生の疑問に答えます (新潮文庫)

 こちらは太田さんのコメントです。

 

P90

 ・・・僕自身が思うのは、何でこんなに近い人に思いが伝わらないんだろうということです。近ければ近いほど、なかなかこっちの思っていることが伝わらなかったりするんです。例えば、僕らなんかテレビに出ていろいろ話していますが、テレビの向こうにいる人には、わりとスッと伝わる言葉が、うちのカミさんに言っても全然伝わらなかったりすることってあるんですよ。

 そんなとき「これってなんなの、こんなに近い関係なのに、遠いほうが伝わったりするわけ」って思うんですよ。ただ、よくよく考えてみると、やっぱり距離が近いほうが伝わりづらいんですよね。要するに、それはテレビを見てる側は、僕の言っていることを素直に聞いても別に構わないという、何か余裕のようなものがあって見てると思うんですよ。だけど、うちのカミさんは僕の言っていることばかり聞いていると、それに対して自分の言いたいこともあるから、一方的に聞いていたら、困るというのがあるんですね。

 だから、お互いに言いたいことがある同士でやってると、やっぱり、思っていることが伝わりづらいんですよ。つまり、家族の間では、やっぱりどこかに利害関係というか、そういうことがあるんだよね。テレビの向こうの人に対しては、僕は無責任だし、見てる側だって同じだからね。そう考えると、家族の間でも自分の納得できるところだけ納得して、そうじゃないところは無視すればいいように思うんです。そうするとスッと伝わったりするからね。