ハンドルにしがみついてると危ないけど、捨てるともっと危ないって、なるほどでした(笑)
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成瀬 ・・・僕は執着とか煩悩が悪いとは考えてないです。だって、執着や煩悩がなければ人間なんて生きていく必要性がなくなっちゃうじゃないですか。なにかに執着し、なにかの煩悩があるから失敗したり、成功したり、喜んだり、悲しんだりいろいろするわけで、それは人間を成長させることですから。・・・煩悩や執着によって人は失敗したり、成功したりしますけど、そういうのがあるから成長します。その結果、「ああ、この執着はいらなかったな」ってわかって捨てるわけですよ。
・・・
だから、無理矢理やることじゃないんです。・・・
・・・
―ちゃんと執着に正対することで自然に手放すことができていくと。いままで「これも煩悩だ、これも執着だ」って無理矢理捨てるもんだっていうイメージがあったんですけど、全然違うんですね。
成瀬 違います。だって、そんなことできないですよ。できないでしょ(笑)?
―できないです(苦笑)。そもそも、煩悩を捨てるとか、悟りたいっていうこと自体、思い切りデカい煩悩なのに、そんな中にいながら煩悩を捨てなさいって変な話だなってずっと思っていたんです。
成瀬 そうそう。悟りたいって執着があるのに「執着を捨てなさい」「無になりなさい」っていうのは確かに変な話なんです。・・・
―結局、煩悩は捨てなくてもいいんですよね?
成瀬 捨てなくていいです。しがみついていたらダメってことです。車を運転してる時にハンドルにしがみついてると危ないですよね。でも、捨てるともっと危ない(笑)。
・・・
煩悩ってそういうことなんですよ。あったらあったでいいよという立場でずっといたほうがいいんです。最後の最後、死ぬ時までなんらかの煩悩はありますからね。・・・
―根本的な話なんですけど、そもそも悟る必要ってあるんですか?
成瀬 必要があるか、ないかではなくて、人間はそこに向かっている、ということです。
―誰でもですか?
成瀬 そうです。・・・どこかに向かっていくわけですよね。・・・向かっていく先は結局のところ死なんですよ。
・・・
その死を迎えるという中でベストな死がこっちですよということです。それは要するにいろんな人生経験をしてきて、自分が納得できて、人間としての勉強を全部終えれば、ある意味悟りってことですよ。・・・
―では、生きてることがそのまま悟りへの道なんですね?
成瀬 そういうことです(笑)。