この話、びっくりでした。
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誰にもウィークポイントはある。体の、である。私に関して言えば、皮膚、なのだ。ある人は腹を下すだろうし、頭痛を発症する人もいるだろう。目がけいれんするっていう人もいるだろう。私の場合は発疹が出るのだ。
それも、ぶつぶつが大きいやつである。・・・気持ち悪いことにその数が半端ではない。それを見てもっと発疹ができそうになるくらい。
・・・
そんな私が昨年、京都で個展をしたときのこと。何度も京都と東京を往復していて、ついに出てしまったのである。友人の家に泊まっているときだった。今晩も泊めてもらって、明日帰ろうというときだった。はっきりと体に異変を感じる。そっとスカートをめくると、やはり例の発疹が出ていた。
それで私は友人に嘘をついた。
「ごめん、やっぱ仕事思い出したから、今日帰るわ、東京に」
心配をかけたくなかった。タクシーを拾い、新幹線乗り場へ。が、どんどん具合が悪くなる。
「運転手さん、やっぱり、ホテルに行ってください。ハイアットリージェンシーに」
このまま帰るのは難しいと判断。とりあえず今夜はホテルに泊まり、安静にするしかない。・・・
ハイアットリージェンシー京都は、私がとっても好きなホテル。・・・
・・・
泊まったことはなかったが、思い切ってチェックイン。予約もしておらず、フロントで空きを聞いたら一室あった。部屋に着いて鏡を見ると、顔にはまだ出ていなかった。服を脱いだら「ぎゃっ!」と、思わず声。発疹が体中に出ている。見て、気絶しそうになった。薬も持ってきていない。「今晩寝れるかしら、体がほてるし」。不安なままベッドに腰を下ろす。そのとき、スピリチュアルな知人を思い出す。どうにもならないときは、そういう力を借りたくなる。
普段は電話に出ないのに、その日は不思議と出てくれた。藁にもすがる思いで、どうしたらいいか聞いた。すると、
「そうね、観音様に助けてもらうといいよ」
「はいはい、観音様ね」
って、待って!どうやって?どこにいるんだ?
すると彼女はのんびりこう言った。
「京都やったら、三十三間堂がええと思うわぁ」
お礼を言って、電話を切る。体中に出ている発疹でふらふらだったけれど、明日の朝行ってから帰ろうと思ってパソコンで調べてみた。三十三間堂は……
「わっ!」
思わず声を出した。というのも、すぐ隣だからである。三十三間堂は、ハイアットリージェンシーの隣なのだ。
「こんなことって……」
だから、氣がよかったのかもしれない。救世主はすぐ隣にいる。そう思うと急に睡魔が襲ってきて、そのまま寝た。
翌朝起きたら、やはり体中真っ赤っ赤。休んだら少しは引くかと思ったが甘くはなかった。・・・
・・・
朝一番の静かな御堂に、と思ったら、なんともう観光バスが四台も来ている。バスから大勢の小学生が降りて、きゃーきゃー言っている。・・・
御堂の中は冷んやりしていた。小学生で埋め尽くされていたが、一千一体の観音様は圧巻。神様の巨大な合唱団みたい。天から金色の歌声が聞こえるようだった。・・・
・・・
・・・ホテルに戻って服を脱いで「ぎゃっ!」と言った。
「ない……」
そう、あれほど広がっていた全身の発疹が消えていたのである。
おそろしい……いや、ありがたい。しかし、こんなことって、本当にあるんだろうか。薬飲んでもなかなか治らないというのに。昔話の主人公みたいな気持ちになる。
帰る前にもう一度三十三間堂に寄って、お礼を言って帰った。