こちらは2007年

なにもかも二倍―yoshimotobanana.com〈2007〉 (新潮文庫)

これは2007年の日記です。
今日何を食べたとか、どこに行って誰に会った、という話のなかに、同じ調子で濃い話が混ざるのが、なんだかいいなと思いました。

P263
 全然関係ないが、人生エンジョイ派にはその考え方特有の弱いところ、だめなところ、インチキなところがあり、同時にものすごい瞬発力や強さ豊かさもあると思う。私は小説家だからまあエンジョイ派の片隅にいて、なるべくよい瞬間、きらきらしたもの、死んでもいいと思う瞬間を集めがちだが、そうでなかったら多分地道に孤児院とかかけこみ寺を経営していただろう。ゲイや占い師の友達が多いのは、彼らは基本的な人生の形からはじきだされた存在で、ただ今をエンジョイするしかないからだろう。その性癖ゆえに家族と円満もむつかしいし、子孫を残すのもむつかしい、普通の会社で出世することもかなりむつかしい。私も全くその通りの人間だから、気が合う。
 逆にとにかく形を生きて、その中で絶対的に自分を貫く派にも、その派なりのとてつもない強さ豊かさがあるし、思わぬ弱さなどもあるだろう。
 いずれにしても自己を極めていくと、人は最終的に同じところにたどりつくだろうと思う。宗教的な地点でもなく、あきらめでもない、むだがなく合理的で、抽象的な意味での標高の高い地点だろう。大切なのは他の生き方を排除しないこと、愛情を持って尊重することだろうと思う。でないといろいろな種類の人がいる意味がゼロだし、愛という言葉の意味がぺらぺらになる。