ホクレア

ホクレア 星が教えてくれる道~ハワイの伝統カヌー、日本への軌跡~

ハワイの伝統カヌー「ホクレア」で航海した様子を内野加奈子さんが書いた本を読みました。

P6
 遠く水平線を眺めながら、私は不思議なほど穏やかに、旅立ちの時を迎えていた。もちろん最初から不安がなかったわけではなかった。これまでいくつもの航海に出てきたけれど、こんなにも長い航海に出るのは初めてだったし、そのリスクの大きさも、もう何度も聞かされていた。
「恐れることも、準備のひとつだ。」
 今回の航海を導くナビゲーターのひとり、ナイノアがそんな風に言っていたのを思い出す。飛行機で数時間の距離を、なぜ5ヶ月もかけていくのか。GPSが自分の位置をいつでも教えてくれる時代に、なぜ星や波だけを頼りに海に向かうのか。航海に出ることの本当の意味を問いかけることが、恐れる心を包み込んでくれた。
 遠く彼方から吹く、冷たい海風が頬をなでる。その時ふと、かつてこの場所に立ち、同じように、旅のはじまりを受け入れた人がきっといた、そんな感覚に包み込まれた。こうして海風に浮かれながら、旅立ちの時を迎えた古代の人々の記憶が、この場所にはしっかりと刻まれているような気がした。どこからともなく突然舞い降りてきたその感覚には、背中をふっと支えてくれるような不思議な温かさがあった。
 出発は近い。

風と波の動きを感じながら読み終わったとき、浄化されたような、洗われたような感覚でした(^^)