前世の家族

ダライ・ラマに恋して (幻冬舎文庫)

デルダンが、前世の家族の家に連れて行ってくれたお話です。

P238
 翌朝、タクシーで学校に行き、待ち合わせていたカルマとデルダンを乗せてシャナースの家族の家に向かった。
「デルダンは、最近も前世の家族に会ったりしてるの?」
 私が聞くと、カルマがデルダンに聞いて言う。
「前に何度か家に遊びに行ったことがあるけど、この1年ぐらいは会ってなかったそうだよ」
 シャナースの家の近くで車を降りると、デルダンはすたすた歩き出す。・・・その、要領を得た感じがまるでこの家の人のような振る舞いだったので、私もカルマも目を見張ってしまう。
 ・・・
 カルマが事情を話すと、お父さんはニコニコ顔で「さぁ入って、入って」と勧めてくれた。シャナースの弟のサリンも顔をのぞかせ、「ジュレー」とあいさつを交わす。
 ・・・
「デルダン、前世のお父さんとお母さんのこと、覚えてる?」
 私が聞くと、デルダンはもじもじしながらコクンとうなずく。
「お父さんは、デルダンのことを聞いたとき、どう思いました?」
「彼女の噂を聞いたときは半信半疑でした。まさかと思いながらも、私たちは学校に行って彼女に会わせてもらったんです。すると、初対面だというのに、彼女は私が誰か分かって『お父さん!』と言って抱きついてきました」
 お父さんが、居間に飾ってあった、額縁に入ったシャナースの写真を見せてくれる。私はその写真を見て、胸がどきん!と波打ち、鳥肌が立ってしまった。シャナースは、デルダンに瓜二つだったのだ。
「デルダンとシャナース……、ほんとうに、そっくりですね」
「ええ、私たちもあんまり似てるんで、シャナースが生き返ったのかと思いました」
 ・・・
 シャナースの享年は10歳。デルダンに生まれ年を聞いてみると、今10歳のデルダンが生まれたのは、シャナースの亡くなった年の翌年のことだった。
 ・・・
 私はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「でも、お父さんもお母さんも家族は全員ムスリムですよね?輪廻転生をすんなり信じることができたんですか?」
「確かに、私たちイスラム教徒は、生まれ変わりを信じていません。でも彼女は、私たちの名前や私たちと暮らした日々のことまで、すべて覚えていました」
 初めて家に遊びに来たとき、デルダンはまるで自分の家に戻ってきたかのように家中のことが分かっていたのだという。デルダンは、シャナースと弟が使っていた子ども部屋に入ると、『ああ、これ、私のおもちゃ!』『私のスクールバッグ!』と言ってシャナースのものに触れ、そのしぐさや振る舞いがシャナースとまったく同じだったのだとお父さんが話してくれる。
「私たちはその姿を見て、彼女がシャナースの生まれ変わりであると確信しました。父として、娘にまた会うことができて、とても幸せです」