欽ちゃんのお母さん

負けるが勝ち、勝ち、勝ち! (廣済堂新書)

 欽ちゃんのお母さん、たくましい、ユニークな方だなぁと思いました。

 

P101

 僕たちの母親って、子ども時代は勉強も熱心にしていたし、OLの走りだったし、なかなか優れ者だったんです。ところが、家のこととなると、まったく不得意。・・・

 ・・・親父から聞いた話ですけど、新婚一日目、・・・「あれ、食事は?」って聞いた親父に、母親は平然とこう言ったんですって。

「そういうことは食事をつくる方がしていたので、私は今までご飯を炊いたこともありません。あなたが炊いてくれると思って、こうしてお帰りを待っておりました」

 もちろん親父も、母親がお嬢さま育ちであることは承知で結婚したんですけど、まさかご飯も炊けないとは夢にも思っていなかった。「あのときは本当にびっくりしたな」って、親父は言っていました。

 実はうちの母親、大阪の商事会社でタイピストをやっていた時代も、実家が雇ってくれたお手伝いさんと一緒に暮らし、家のことや身の回りのことは全部その人に任せていたんですって。

 ・・・そのうち親父の商売が軌道に乗ったので、僕が小学校にあがる頃は、家にねえやとばあやがいました。

 そのあと、ジェットコースターのように真っ逆さまに貧乏になるんですが、・・・旦那にはいっさい文句を言わず、嫁入りのときに持ってきた着物を質に入れたりしながら、表面上はゆったり構えて、家計をやり繰りしていたんです。

 ・・・

 僕が今思い出しても感心するのは、母親が僕らの父親である旦那の悪口を、一切言わなかったことです。

 うちの親父には別宅があって、うちに帰ってくるのは週に一回くらい。・・・

 ・・・ある日、僕はあることに疑問を感じたんです。よその家は毎晩お父さんが帰ってくるのに、なんでうちはときどきしか帰ってこないんだろうって。小学校一年生のときだったかな。それで母親に聞いてみたら、こんな答えでした。

「男の人は仕事が命なの。だから本当に仕事をしている人は、週に一回しか家に帰ってこられないのよ。ほかの家のお父さんは、毎日帰ってきてるでしょ。そういう人はね、あんまりまじめに仕事をしていないの」

 これで僕、いっぺんに親父のことを尊敬しちゃいました。のちに本当のことを知ったあとも、親父に対する尊敬は変わらなかった。僕の母親、ちょっと変わっているけれど、子どもにうま~い嘘をついたりして、なかなかしゃれてるでしょ。