生きのびるための「失敗」入門

生きのびるための「失敗」入門 (14歳の世渡り術)

 こんな内容の本を、10代のうちに読めたら助かるだろうなと思いました。

 

P57

「お酒をやめたばかりの頃、人が自分を見てると『笑われてる』って思って人がすごく怖かったんですね。そんな話を仲間にすると、『だけどアルコール依存症措置入院になるあなたの方がよっぽど怖いよ』って言われて、そりゃそうだよなって思ったり。あとは、『世の中は苦に満ちている』と教えてくれた人もいました。普通の人でも年に何度か温泉行くくらいが楽しみで、あとは概ね苦に生きてるから、苦しんでるのはあなただけじゃないって」

 そうして前向きになった月乃さんは、「ちゃんとした仕事に就こう」という意欲を持つ。・・・

 しかし、すぐに仲間に止められた。

「『ちゃんとした就職はやめた方がいい』って言われたんです。漫画以外で27歳まで仕事したことなくて、見るからに常識もないしまったく社会で通用しないと。結局挫折して、そのことによってまたお酒を飲んでしまうだろうから、なるべく給料が安くて短時間の仕事を選んだ方がいいって」

 当時はちょっと傷ついたものの、今思うと適切なアドバイスだったという。

 そうしてまずは1日2時間、メガネを拭く仕事を半年した。その次は、日給5000円の清掃会社で2年働いた。その後、職業訓練校に行ってビルメンテナンスの資格をとって就職。それから30年近く正社員としてつとめ続けてきた。あと4年で定年だが、会社でも順調に認められていないようだ。

「今、56歳で係長なんですが、30年弱つとめてる中では最低ランクっぽいです。でもまぁ、こんなもんでしょうね。会社員としていろいろ辛いこともありますけど、とりあえず自助グループに行けば自分が座る場所があるっていうのが私を支えていますね」

 今も会社で嫌なことがあったりするとお酒を飲みたい衝動に駆られるそうだ。が、自助グループの存在が歯止めになっているという。

 

P78

 今、ロボットの世界では、利便性や合理性だけでなく、「存在感をアピールするロボット」が増えてきているそうだ。最近、岡田さんたちは「NICOBO」という<弱いロボット>をパナソニックと共同開発した。

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「僕は、ずっと言葉がなまってたり、人前でちゃんと喋れない人間で、いつもオドオドしてるタイプなんです。昔、NTTの研究所に長らくつとめてたんですけど、最初から偉くなるのをあきらめてました。自分でロボットを手作りし始めた時も上司を説得するのにすごく苦労しました。理路整然と、『こういう研究をしたいのでお金が必要なんです』って言えば会社のお金が使えたんですけど、そういう説得ができない。なので、オドオドしながら外堀を埋めていくんです。上司を説得する前に、『これ面白いぞ』って、周りの評判を作っちゃう。そうするとようやくお金を使わせてくれて、ロボット作りも進む。そういうやり方でやってきました」

 口がうまくない人なりの創意工夫が、<弱いロボット>を作ってきたのだ。っていうか、もしかして<弱いロボット>のモデルって、岡田さん自身では?

「かもしれないですね。オドオドしたりもじもじしてる自分は、世の中に出る時になかなか大変だぞと思ってたんです。でも、意外と応援してくれる人はいる。なんとなく、隙があるんでしょうね。『こいつはたぶん、俺を食ってしまうことはないだろう』って、みんな隙を見せちゃうんですね」

 

P98

 角幡さんが探検を始めてもう20年。・・・

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 ・・・新型コロナウイルス・・・感染拡大が始まった頃、角幡さんはグリーンランドにいたというが、どんな影響を受けたのだろう。

「始まったのは2020年の3月頃ですよね。犬ぞりで旅して2ヶ月くらい村にもいなかったから、人間の動向も何も知らない。旅から帰ってきて、え、そんなことになってんのって感じでしたね」

 パンデミックともしばらく無縁だったというから筋金入りである。そんなグリーンランドの感染者は累計で700人ほど。死者は0人。現在は日本とグリーンランドを行き来している生活だというが、「日本ってすごい疲れるんですよ」と言う。

「他人のやってることに対して口うるさく言うのが激しくなってますよね。何かやるといちいち批判される。僕が一番嫌なのは、自己責任って言葉に象徴されると思うんですけど、何もやらないことが得になっちゃってることですね。何かやると叩かれるから。そうして何もやらない立場になって、何かやってる奴を責める。日本の自己責任論は、自己責任という名前を借りた切り捨てというか、何かをやらせないための言葉になっている。それをやったお前は死んで当然、みたいな。歪んでいると思います」

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 そんな角幡さんは、7歳になる女の子の父親でもある。

 いろいろと「見通しが甘い」わけだが、それはしっかりと娘にも受け継がれているようだ。

「僕の娘もしょっちゅう忘れ物して、そのたびに『なんでこんなに頭悪いんだろう』って落ち込んでるんですよ。そういう時、『全然なんの問題もない』と言っています。例えば僕は海外行く時も、出発の日を間違えて飛行機のチケット台無しにするとかそういうミスがずっと続いてるんですよ。ちゃんと確認しないで早とちりみたいな。新聞記者の頃も、こっちから取材をお願いしてるのに約束忘れてすっぽかしたり。それでも、45年間生きてきて、別にそれで死にはしないでなんとかなってる。だから娘には『俺も同じでいろいろなものなくして、多少お金はかかるけど何も問題ない。それより、そういう性格だからできることがある』って言ってます」

 それは親という立場上、なかなか言えないセリフではないか。というか、話を聞いていて、角幡さん自身、自分の「見通しの甘さ」を直そうとすら思っていないことに今更気づいた。が、それは正しいのだ。直してしまったら、今の角幡さんの「よさ」は失われてしまうだろう。

「あと、娘は協調性もないらしくて、うちの奥さんはそういうところを欠点として捉えているわけですよ。でも俺は全然そうは思わない。俺がそういう性格だったから、自分としてはわりと楽しい人生送れてる。これが協調性のある性格で他人とうまくいくことを優先してたら、こんな面白いことはたぶんできなかった。だから俺はそのままでいいって言ってます」

 なんと説得力のある言葉だろう。というか、「楽しい人生を送れてる」と断言できる大人なんて、そうそういるものではない。父親がそう口にできるという一点だけで、子どもはとても幸せだと思う。