お皿のラブレター

お皿のラブレター

 よくぞ100皿も・・・こんな発想のお料理が作れるってすごすぎる・・・と思いつつ眺めました。

 写真を引用できないのが残念ですが、印象に残った文章を書きとめておきます。

 

P76

 その頃の私はコピーライターで、広告のキャッチフレーズを書いたり作詞をしたりして10年くらい、収入は順調だけど、自分が一番いいと思うコピーや詩を通せなくてちょっとやさぐれはじめてた。私はマイノリティーで自分の大好きなものは一般ウケしないだなんて。だけどそんなダサい思い、ブルーハーツが粉砕してくれました。だって私がローカルテレビのガサガサな画面でリンダリンダを歌うメジャーデビュー前のヒロトをはじめてみて、一瞬でヤラレテ以来、ブルーハーツが社会現象って言われるくらいあらゆるジャンルのあらゆる世代の心を揺さぶってしまうまであっという間だったのをしっかり目撃してしまったから。そう、私はただの能力不足。でもそこから数年は粘ってみました。ヒロトを追いかけながら、書く仕事もがんばってみた。でもやっぱりなんか違うんだな。素敵だなあって思える人に出会ったときにこの仕事のこと喋りたいかなって。だから決めたんです。次行こうって。もっと素直になれるほうへ。

 でもねえ、びっくりするくらい何も思い浮かばないの。何をしたらいいのかまったく分からなくて冷や汗でる感じ。だけど眠れない日々が続いたある日、やっと一つ分かったことがあった。人生お金じゃないって口では言えるけど、コピーライターの収入を片手でキープしながら次のこと考えてるからダメなんじゃんって。ここはありったけの勇気をだす場面。で、次の年賀状でコピーライターやめました宣言をしてスッパリやめてやることにしたんです。とにかくやめる。次が見えなくても。この決心は気持ちよかったなあ!久々に心が晴れました。ヒロトのおかげ。勝手ながら素直さと勇気をもらってできたこと。

 そしたらなんと!その決心から2週間もしないある朝、いきなり起き抜けに「料理じゃん!」って。神様、いました。教えてくれました。なんでどうしてそこに気がつかなかったのかなあ。子供の頃から料理というジャンルに興味があって、料理するたびにコピーライターより才能あるよねって笑ってたのに。何かをちゃんと手放すと、何かがちゃんとやってくるのかな。かくして私はそこから大好きな料理の世界にどんどん入って行けたのです。お皿のラブレター第1回目のページでヒロトのことを恩人みたいな人って言ったのはこんな理由があったのです。なんか今日は独白ふう。笑。

 

P218

竹花いち子(I) いやー、まさか受けてもらえるとは……でも、ヒロトならきっといいよって言ってくれそうな気もしたので、まっすぐお願いさせてもらいました。

甲本ヒロト(H) いえいえ、こちらこそ。・・・

 ・・・

 フフフ。まさか料理で自分の歌に反応してくれる人がいるなんて思わないから、最初に聞いた時は「あ、そういう企画なんですね。はい」って。でもその後、会うこともできたんで、2回目(「豆と海」)は実際に食べさせてもらいました。ライブに行って、1曲ずつ楽しむみたいに……何ていうか、「頭蓋骨で食う」感じだったな。

I 頭蓋骨?

H うん。食感って、歯を伝って頭蓋骨にくるじゃないですか。コリコリ、カリカリ、ポクポク、噛んで歯と歯が当たる音とか……頭蓋骨で味わううまみって、最高だよ。

I 話すことが、いちいち歌詞(笑)。1回目のラブレターを出した後、ヒロトが共通の知り合いと一緒に食事に来てくれることになったんだけど、普通に考えたら、めっちゃ緊張してドキドキしても当然じゃない?もちろん来るまでは大騒ぎで、私がどのくらいヒロトのことを大事に思ってるかを知ってる友達は「大丈夫?」って。

H アハハハ。

 ・・・

I ・・・実際に料理を作って出してみたら、私、びっくりするくらい平気だった。全然緊張しなかった。その時、ああ、私は料理と一緒にいれば平気なんだ、何があろうと誰が来ようと「私です」っていつでも言えるんだって。そのことが実証できた瞬間だったなぁと、今でも思ってる。

H いいね。すごくいい。僕も「よし、OKだ、大丈夫だ」って思えたのは、つい最近ですよ。それまでは何やってんだかよくわかんなかったし、明確なビジョンもなくて、不安になる時もあったんだよ。「俺、大丈夫かな?」って。

I えー、ほんとに?

H ほんと、ほんと。でも最近、やっと思えた。「おっきな声で、一生懸命歌ったら何とかなる」って。昔から毎日やってるんだよ?でっかい声で、いつでも一生懸命歌ってる。でも、それがいいことだとは思えてなかったのが、最近やっと「あ、これはいいことなんだ」って。

I うん。

H やっぱりそれも、時間が証明してくれたことなんじゃないかな。毎日ごはんを食うのに困らないし、友達もいるし、幸せな毎日を送れてる。どうして今、こんなに楽しく生きていられるんだろう?と思ったら、結局、それしかやってなかったからで、だったら、これからもやっていけばいいんだなって。そんな気がした。

I そうだったんだ……。あのね、聞いてみたいことがあったんだけど、ヒロトは曲を作る時、誰かにあげたいと思って作ったりするのかなって。

H (即答)しない。

 ・・・

 ・・・自然に浮かんでくる音楽をそのままやるだけだから、無責任っちゃ無責任。僕の曲がきっかけで誰かが幸せになってくれたら、それはうれしいけど、誰かを勇気づけようとか幸せにしようとかは一切思わない。もっと言うと、不幸になっても全然かまわない。目的は、そこにはないから。ロックンロールが目的だから。僕はどこかで、そう腹を括ったんですよ。ロックンロールを手段にはするまいと。たとえば、ロックンロールで世界を平和にしてやろうとか思うと、ロックンロールが平和の道具になっちゃうでしょ?そうじゃなくて、ロックンロールこそが最終目的でいいじゃないか、と思うんです。

 ・・・

I ・・・料理にはレシピっていうものがついてくるんだけど、私は、とにかく分量を量ったりするのが苦手で。やってると、ほんとに具合が悪くなっちゃうの。思いついた分量をいちいち量ってると、今、心に浮かんでる思いが逃げていくような気がして……。

H でも、ちゃんとおいしいものができてるよ?いち子さんの話聞いてると、思考は音楽家だね。やってること、僕と同じなんじゃないかと思う。

I そう?

H 僕の言い方だと、曲を作るときは、ろくろを回してる感じ。回しながら偶然に任せて作ってるわけだから、「今、人差し指と親指をギュッとやったでしょ」「指に何グラムの力入れた?」って言われても、わかんない。

I そうなの、わかんないの。

H 自分としては手を置いてるだけだから、動きは説明できない。ただ、そうして偶然出来上がったものを「うわ、カッコいい!」って思う瞬間があるんだよ。それが僕の「できた」。・・・