バカ田大学講義録なのだ!

赤塚不二夫生誕80年企画 バカ田大学講義録なのだ! (文春e-book)

 赤塚不二夫生誕80年企画として、架空の「バカ田大学」を実在の大学で開講するというイベントがあったそうで、その書籍化されたものを読みました。

 読んでいると不思議と連想がふくらむようなお話が多かったです。

 こちらは坂田明さんのお話です。

 

P130

 まず、私が着てる白衣はですね、さかなクンが描いてくれたんです。

 今日のテーマは「役立たずの在り方とミジンコについて」なんですが、世の中に役立たずという者がいるっていうのは、みなさんご存知ですよね。「役立たず」と小さいときに言われたことのある人は手をあげて。大人になってからも言われた人は?

(会場ぱらぱらと手があがる)

 アハハ!それは立派なことなんですよ。なぜならば、役立たずという役をやっているわけですよ。そのことがとても大事なことなんです。

 簡単に言えば、100点を取った人はなぜ嬉しいか?0点のやつがいるからだよ。ねっ?0点の人がいなかったら、100点を取っても嬉しくない。この落差が大事なんです。落差をつめて自分が上に上に立とうとする人もいるし、別にいいやって人もいる。いろんな人がいるわけです。世の中の役割分担ってことなんです。ですから役立たずな人は「役立たず」っていう役をやっていて、その役にずっと甘んじるかどうかというのは、その本人の問題であります。まわりの問題ではありません。

 で、たとえば、「先生」と呼ばれたりしている人もいますけど、そういう人も全部役割を演じている。全部がえらい人だったり、全部が私のようにフリーランスー僕はどっか勤めているわけじゃない、給料取りじゃない。日雇いで暮らしているアホたれですけどー、そういう人間ばっかりだったら社会のしくみが成り立たないわけです。ですからみんなそれぞれの役割があって、役割がとても大事なのであります。

 世の中には、このようにたくさんの役割があるわけですが、赤塚先生のことは、誰も真似できません。赤塚先生の真似をしようとしたら、失敗しますからやめましょうね。あの人は人生があんなふうだったから、あんな人になったので、そうでないとああはなりません。

 僕は基本的にミュージシャンなんですけど、でもなぜミジンコの話をするか?

 ・・・

 僕はミジンコの研究者ではなく、観察者なんです。ミジンコと共に生きている。

 ・・・

 ミジンコは命が透けて見えるんです。顕微鏡で見るともっと透けて見えます。

 ・・・

ポインターで指しながら)これが眼です。これは卵に見えるでしょ、卵です。これは心臓で、これが脳です。脳があるからえらいってことじゃないですよね。みなさんわかってますか。大事なことですよ。ミジンコに脳があるからえらいってことじゃない。脳があったりチンポがついているから、いろんな苦労が絶えないわけです。

●わ!ミジンコだ!

 顕微鏡で初めて生きてるミジンコを見たとき、思ったことが、「わ!ミジンコだ!」なんです。生きてることが凄いと思って、感動した。感動するというのは、心が揺れ動くことで、心が揺れ動くことが楽しいのよ!・・・

 ・・・

 タイリクミジンコ。これも黄色いのが卵に見えるでしょ。卵に決まってる(笑)。体が緑に見えるでしょ、ミジンコの諸君は何を食べているかというと、植物プランクトンバクテリアを食べている。食べた植物プランクトンの色が、緑色なんです。・・・

 似たようなミジンコにオカメミジンコというのがいますが、卵が脱皮、変態して、お母さんと同じ形になっていきます。お腹を持ち上げると殻が開いているので、ここから泳いで子供が出てくる。

 こんなふうに、「ミジンコはミジンコをしていた!」ここを人間に置き換えてみてください。「人間は人間をしていた」と、こうなるとヘビーな話になる。僕はミジンコにかこつけて、このことを考えてきた。人間はいったい何をしていたのか。人間が人間をするためにはどうすればいいのかを、僕は考えているわけです。

●命が透けて見える

 普通人間の顔を見たって、命が透けて見える人はいませんね。ところがミジンコはこうやって全部見えちゃう。もし人間の命が透けて見えたら、・・・「あっ、カレー食ったな、エビカレーだろ?」とかね(笑)。いやでしょ?そんな人生。何食ったかわからないからいいんであってね。ところがこの諸君は全部見えます。なぜ体が透明か?それは魚とかのエサになりたくないからです。できるだけ相手から姿を隠して、透明になろうとしている。・・・できるだけ透明にして、食べられないようにしてるんだけど、どんどん食われてしまう。

●コップの中に宇宙が見えた

 嘘だろう⁉まあ、錯覚です。しかし、そう見えた。コップの中にミジンコを入れて虫眼鏡で観察するとですね、ミジンコに焦点が合うと背景が無限大になる。無限大なんていうのは、宇宙のように見えるのよ。「わ、宇宙だな!」と、思ったんですよ。

 ・・・

 ・・・去年、東北大学の占部城太郎という先生が、実は日本にいるダフニア・プレックス、和名はミジンコという種類は、アメリカから入ってきた、たった4匹の子孫だと、その4匹というのは、北米にいたときにすでにほかの種と混血していて大体700年から3000年前に入ってきたと、そういう「えーっ!」というふうなことを発表しました。

 そして尚且つ、この連中が交尾をした形跡はない。遺伝子を調べてみたら、交尾をしていない。その占部先生は、自分の研究室でミジンコがメスだけで受精卵をつくるということを実験で証明したと言ったんです。・・・

 だから、科学というのは幻想なんですよ。・・・

 ・・・客観なんてどこにも存在しませんよ。みんな、自分の興味のあることしか見ていませんから。どっかの風景を見たってね、全部は見ちゃいませんよ。客観的にものを見るのは無理なんです。・・・そしてみんな色眼鏡をかけています。それでいいんですよ。

 自分の感じた世界というのが「世界」だと。つまり、客観性の反対です。・・・