心ひとつ

市川海老蔵 眼に見えない大切なもの (Grazia Books)

すべて「心ひとつ」、そうですね。

P186
『眼に見えない大切なもの』ってなかなかいいタイトルじゃない、と思っているんだけれど、それは今回の海外公演で「これまで、いかに眼に見えるものに縛られることが多かったか」、それを強く感じたからだと思います。
 海外に行くといろんなことが起きるわけですよ。日本とはまったく状況が違うから、想像もしなかったことが起こる。そういう状況が新鮮で、刺激的でもあるわけだけれど、同時に「いい加減にしてくれ」と言いたくなることも出てきます。もちろん、日本でもそういうことはしばしば起きるんだけれど、海外だと自力で解決するしかない。雑音も少ないけれど、助けもない。時間もない。公演を成功させるためには、「イヤだ」で止まっていたらどうにもならない。頭がかなり冷静になってきたということなのか、なんで「イヤだ」と思ってしまうのかをよく考えてみたんです。
 要は、目の前で起きていることを拒否してしまうからなんですよね。眼に見えるものごとに「イヤだ」と感情で反応しているに過ぎない。それにとらわれて、イヤな気持ちになっているだけ。心が定まっていたら、「こういうときもあるよな」と済ませられるはずなんですよ。自分の哲学や思想がちゃんと整理されていたら、「こういうこともあっていいじゃん」と、いい方向に受け止めることだってできるんだと思う。つまり、すべて「心ひとつ」なんだなと。そう思ったんです。
―何ごとも気持ちしだい、ということですか?
 そうとも言うけど、ちょっと違うな。心、こころですよ。
 少し極論になるけれど、みんながすべては「心ひとつ」だと思ったら、物もお金もいらなくなりますよね。眼に見えるもののほとんどはどうでもよくなる。人間は別です。愛する存在はやっぱり必要だから。・・・
 ・・・たとえば、地球上にいる人すべてを家族のように感じられたら、いらない人なんていなくなるわけですよね。すべての人が「愛する存在」になる。21世紀に生きる人はみな同世代と思うことができたら、いろんなことが変わるでしょう。みんながそういう次元まで行けちゃえばいいんだよね。・・・