102歳、一人暮らし。 哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方

102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方 (文春e-book)

 「あの世でも仲良う暮らそうや」の巻末で、著者の104歳になるお父さんと対談されていた、哲代おばあちゃんの本を読みました。

 

P24

 年を取ると一日が長いと言う人は多いですが、私にはあっという間です。朝食にいりこの味噌汁をこしらえ、畑に出ては草と格闘し、毎晩日記をつけ、贈り物をいただけば礼状を書き、下着と靴下は別々に洗って……。当たり前の毎日に感謝し、ささやかなことに大喜びしています。こうして、体も心も大いに動かすから、朝までぐっすり眠れます。

 

P28

 きょうは冷たい雨が降ったので、一日中、家の中で過ごしました。雨の日はどうしても気持ちがふさいでしまいますね。私、人生を謳歌しよるように見えるでしょう。でもね、悩みはあるんでございます。悩み事は日記にちょびっと書きます。そしたら心がすーっとする。自分で納得するんですね。

 もうとっくに吹っ切れたつもりでしたが、子どもがいないこともあって、年を重ねるほど心細さを感じます。こんな雨の日に一人で家にいると「人生をしまう時、周りに迷惑をかけにゃええが」などと考えてしまいます。

 だから、いつも忙しゅうして自分を慰めるの。自分をだましだまし、やってるんでございます。

 

P51

 わおわお!驚くことが起きました。3月15日、尾道市教育委員会が開催した「100歳を生きる智恵」講演会の講師に招かれたのです。

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 それにしても、講演なんてえらそげですな。えっちらおっちら生きとるおばあさんのありのまんまをお話しするだけです。どうすりゃあ毎日自分を楽しませながら上手に生きていけるか。それしかありません。講演でも少しお話しさせてもろうたのは次の五つのことです。

 

一、物事は表裏一体。良いほうに考える

 物事には必ず表と裏があります。ほら、おばあさんの手を見てごらんなさい。手の甲はしわしわですが、ひっくり返せばつるつるです。一方向から見るだけでは分かりません。例えば受験に失敗して本命じゃない学校に行ったとしても、そこで生涯の友に出会えるかもしれんでしょう。失敗もひっくり返して、良いほうに考えるんです。失敗にとらわれてばかりじゃ劣等感に包まれて人生が曲がってしまう。人間がこもう(小さく)なってしまいます。失敗は通過点で、いくらでもやり直せる。あれは成功じゃったと思える日がきっときます。

 

二、喜びの表現は大きく

 うれしいな、ありがとうという気持ちを相手に伝えようと思えば自然にオーバーアクションになります。普段、姪の直ちゃんがおかずを差し入れてくれたり、ご近所さんがお掃除を手伝ってくれたりすることも多いんです。一人の寂しさを知ってるからでしょうかなあ。本当にありがたい。いつも「わおわお」って大喜びしています。

 年寄りが機嫌を悪うして怒りっぽくなるのはいけんと思います。年寄りは若い人の見本にならんといけん。ああ、老いても楽しそうだなあって思ってもらえるよう、にこやかに。社会のムードメーカーっていうんでしょうか。同じ一生じゃから縮こまったりうつむいたりせず、伸びやかに過ごしたいです。

 

三、人をよく見て知ろうとする

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 相手のことを知ろうとする、観察するいうのは教師時代からの癖ですかなあ。元気ないなとか、少し瘦せちゃったかねとか、ちょっとした変化に気付くことは大人同士のつきあいでも大事なことじゃなと思います。

 声掛けの内容によって相手の反応も変わる。この人、私のことをよう見てくれてるなあと思うたら、安心して自分をさらけ出してくれるようになるんです。

 

四、マイナス感情 笑いに変換

 食べるものが「ない」とか、お金が「ない」とか否定の言葉を使う時、語尾に「ナイチンゲール」を付けます。「お金がナイチンゲールでございます」ってな感じです。そうしたら皆さん、クスッと笑うてくれる。同じ「ない」でも笑いに変えると気持ちがええの。「ないない」ばかりじゃ気分が沈むから言いたくないんです。心の落ち込みは魔物です。落ち込みそうになったら早めに自分を助けてあげんといけんのです。

 

五、手本になる先輩を見つける

 知らず知らずのうちに、しゅうとめさんのまねをしている自分がおります。暇を見つけては庭や畑の草を取り、いつもきれいにしとっちゃった。毎晩、仏さんに大きな声でお経をあげるのも、しゅうとめさんから引き継いだことです。

 ・・・陽気で働き者のところも、ちょっとした心遣いも、いつもやってみせてくれました。皆さんも、手本になるような先輩を探してみたらええです。まねをしながら、体に沁み込ませていけたらもうけものです。

 

P74

 6月の頭、療養のためしばらくお世話になっていた弥生さんの家から自宅に戻り、一人暮らしを再開させました。

 きょうは竹ぼうきで庭掃除をしました。長いこと家を離れとったでしょう。草と落ち葉で大変なことになっとる。

 家に戻るやいなや畑にサツマイモの苗を植えました。朝の味噌汁を作って、電動シニアカー「タッタッタ」で畑に通って……。あれして、これしてと自分をわざと忙しくさせています。というのも、元気な時と同じことを、同じようにやってみたいんです。

 体を動かすと、ちゃんとおなかがすく。ようけ眠れる。よしよしいいぞ、この調子。自分の気力と体力を確かめながら、一人暮らしの日々をいとおしんでいます。バタンと倒れてもその時はその時。それまでは精いっぱい生きていこうと思うとります。

 

 取材記者のまなざし②

 退院したと聞いて、哲代おばあちゃんを訪ねた日。書棚にあった仏教本を何げなくめくってみて、はっと息をのんだ。表紙の裏に、びっしりと哲代おばあちゃんの文字が並んでいた。「御先祖様 すみませんでした。良英さん すみませんでした」。2年前、99歳の時に書かれた文章だった。

 1946年に農家に嫁いだが、亡き夫良英さんとの間に子どもを授かることができなかった。子だくさんが当たり前の時代。後継ぎができないしんどさは、いかばかりだったろう。99歳になった哲代おばあちゃんはあらためて、そのしんどさに直面していた。この家をどうするか、人生をどうしまうか―。頼る子どもがいない哲代おばあちゃんの苦悩が、文面ににじんでいた。・・・

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 哲代おばあちゃんがつづった胸の内。記事で触れてもいいですかと尋ねたら、「ええですよ」と言う。「心はお月さんのようなもんです。満月のように輝きたいが、私のは三日月のようにちいと欠けとる。弱いところを見せて、いろんな人に助けてもろうて、満月にしていこう思います」。また名言が返ってきた。

 

P119

Q 腹が立った時の対処法は?

 感情が波立っているうちに言い返してはいけません。その時はすっきりするかもしれんが、のちに必ず後悔するけえね。私の母はよく「つばを3回飲み込みなさい」と言うとりました。そう、ちょっと間をつくることです。そうするうちに心が落ち着きます。相手のことを「悪い人ではないんじゃがなあ、この年になってはもう直らんなあ」なんて、冷静に考えることができます。

 

P133

 ・・・4月29日で102歳になりました。・・・

 毎日、あれやこれやと動いております。やるべきことをいくつもつくって、一つずつこなしていくの。そうやって自分を励ましたり、健康のバロメーターにしてみたり。

 それが最近、冬布団の上げ下ろしがこたえるようになってきました。「これができるうちは大丈夫」と思うてやってきたんですが、年相応に体はガタついております。だから押し入れに収めるのはやめて、畳むだけにしたんです。このやり方もええですな。無理してけがしちゃいけんからなあ。

 でもね、毎日の味噌汁は作れます。きょうも朝起きて、味噌汁の仕度ができて、ええねとしみじみ思いよるん。自分でこしらえると感動的においしいの。できなくなったことを追わない、くよくよしない。できることをいとおしんで、自分を褒めて、まだまだやれるという自信に変えるんですね。

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 生きとる間は楽しまんと損ですね。「ああ、おなかすいた」とか「ああ、ご飯がおいしい」とか。一つ一つ、大げさに声に出してその瞬間を喜びます。そんなことをしていると、一日なんてあっという間に過ぎてしまうんでございます。