すごい免疫力

ダチョウはアホだが役に立つ

 知れば知るほどすごいです。

 

P26

「三歩歩けば忘れる」とかいって、ニワトリはアホの代表みたいに言われています。

 確かにニワトリも大概アホやけど、ああ見えて意外に繊細で、注射をすると卵を産まなくなることが多いんです。注射されて痛いのと、とっ捕まえられたことのストレスでしょうね。違う鶏舎に移しただけでも卵を産まなくなったりします。

 そこへいくとダチョウは注射をしても何も感じないようで、おかげで抗体を作る上でごっつ助かってます。

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 ・・・血のにおいを嗅ぎつけてカラスがやってきます。ダチョウの背中に舞い降りて、図々しく肉をついばみ始めても、ダチョウは知らん顔。尻の肉がえぐれ、かなり出血しても平然とエサのもやしを食べ続けます。

 いくら痛みに鈍感やとしても、自分の身ィが食われてんのにもやしを食うとるなんて!

「自分のそのデカい目ェは節穴か!カラスを追っ払わんかいッ」

 そうひとこと忠告したくなります。

 でも、驚くのはここからです。

 ぼこっと体に穴があいて骨まで見えるひどい重傷を負っても、ダチョウは死なへんのです。傷に薬をスプレーしておけば数日で傷がふさがり、1ヶ月もすれば皮膚が再生されて元どおりになります。これほどの回復力のある生き物は、そうはいません。

 なんでこんなに早く傷が回復するんやろう。不思議に思ってダチョウの傷口の組織をホルマリン漬けにして大学に持ち帰り、顕微鏡で覗いたところ、ダチョウの細胞はほかの動物の細胞よりはるかに速く動くことがわかりました。

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 傷口から感染症にかかることもないのは、免疫力が並外れて高いからでしょう。それだけ抗体を作る能力が高いとも言えます。

 ダチョウがとてつもない生命力と免疫力の持ち主であることは間違いありません。

 

P63

 大学時代から鳥の感染症を研究していた僕は、ダチョウの強さはいったいどこからくるのか、俄然興味が湧いてきました。

 そこで鳥が感染するコロナウィルスをダチョウに注射してみたところ、ものすごいスピードで抗体ができたのです。おおざっぱに言うとほかの動物の半分以下の時間しかかかりません。ダチョウはとんでもなく自己治癒力が高く、抗体を作る能力がずば抜けている。もしかしたらこれはすごい発見ちゃうか。ちょっと震えがきましたわ。

 

P99

 ここまで当たり前のように抗体、抗体と連呼してきましたが、そもそも「抗体」とはなんでしょうか。

 抗体は、体の中にインフルエンザやコロナウィルスなど体を傷つける異物(抗原)が入ってきたとき、それを無力化して除去するために体が作る物質です。抗原ごとに抗体は異なります。・・・

 最近よく聞く「免疫力を高める」というのは、イコール「抗体を作る能力を高める」なわけです。

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 ダチョウという鳥は、恐竜が鳥類に進化していった直後くらいに枝分かれして登場した、いわば原始的な鳥です。・・・そのせいで、遺伝子も普通とは違います。神様が設計ミスをしたんちゃうかと疑いたくなるほどめちゃくちゃです。

 哺乳類の場合、すでに進化してきた生物なので、抗体を作るための遺伝子がある程度固定されています。だから遊びの部分がほとんどないんですね。ところがダチョウさんの遺伝子は、遊びだらけです。

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 ダチョウの場合、抗体のY字の先が長すぎるし、ゆらぎがあるんです。だから、ほんまやったらこんなところまで引っ付かへんやろう、というところまで引っ付いて、ものすごい種類の抗体が大量にできてしまう。

 だから、ウイルスなどの異物が体に入ったら、一気にあらゆるパターンのたくさんの抗体を作り出すことができるんですね。ダチョウの驚異的な免疫力、回復力の秘密はそこにあるわけです。

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「速くて安い!おまけに質は天下一品。めちゃくちゃお得ですわ」

 ダチョウ抗体をひとことで言えば、そんなところです。