病は気からを科学する

「病は気から」を科学する

 横尾忠則さんが読んで面白かったという、この本を読んでみました。

 プラセボ効果から始まり、心・意識の力に改めてびっくりする内容でした。

 

P63

 ・・・医師も製薬会社もすでにプラセボ効果を利用している。・・・人は薬を投与されるたびにプラセボ効果を経験している。要するに、人が感じるメリットは、薬の効力にそれが持つプラセボ効果を組み合わせたものだ。薬によっては、効果はほとんど化学成分に限られるものもある―たとえば、プラセボのスタチンは、コレステロール値に対する効果があるとしても、ほんのわずかだ。一方、抗うつ剤のような薬では、ほとんどの場合、効果をもたらしているのは人の心だ。

 そこで、プラセボ効果を活用する方法として、実薬と組み合わせて、プラセボ効果を高めるものがある。・・・研究によれば、「強い効き目のある薬」という印象を持たせさえすれば、より多くの人に強い効果を生み出すことがわかっている。

 たとえば、サイズが大きければ、小さなものより効果が高くなる。一回分が二錠なら、一錠の場合よりよく効く。見覚えのある商標名の錠剤は、そうでないものより効果が高い。色つきの錠剤は白い錠剤よりよく効く傾向があるが、どの色が一番よいかは、高めたい効果による。青は睡眠を促し、赤は痛みの緩和に向いている。緑の錠剤は不安に対する効果が最も高い。治療方法もまた重要だ。治療が大げさであればあるほど、プラセボ効果が高くなる。一般的には手術は注射より、注射はカプセルより、カプセルは錠剤より効果が高い。

 けれども、文化によって差があり、どの効果もプラセボそのものではなく、それが自分にとってどんな意味があるのかが重要になる。たとえば、青い錠剤は概して優れたプラセボ睡眠薬となるが、イタリア男性にとっては逆の効果をもたらす傾向がある―おそらく、青はイタリア代表サッカーチームの色であるため、リラックスするより、むしろ興奮してしまうのだろう。また米国では、注射は錠剤よりプラセボ効果が高くても、ヨーロッパでは必ずしもそうではなく、文化的には錠剤が効くという強い思い込みがある。

 どれも非常に興味深い。

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 ・・・プラセボへの信念に賛同する人もいる。・・・

 ボリングブルックが効かない薬の販売を思いついたきっかけは、従軍経験だった。・・・任務中にマダニに噛まれた。イギリスに帰国したのち、頭痛、疲労感、関節と筋肉の痛みなど、様々な症状が出た。マダニを媒体とする感染疾患、ライム病だという診断がされる頃には、細菌感染が神経系に広がり、体は元に戻らなかった。

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 多くの薬が処方された―ある時期には、鎮痛剤から抗うつ剤まで、同時に九種類の薬を飲んでいた。・・・

 プラセボの研究にひらめきを感じたボリングブルックは、薬を絶つことにし、一回分ずつ、徐々に自分で作った効かない薬と取り替えていった。今では、本物の薬は「ほとんど」服用していない。鎮痛剤を飲んでいたときと同じように、プラセボで痛みを抑えているのかとたずねると、ボリングブルックはいっとき考えてから答える。「抑えていると思っている」

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 ・・・ボリングブルックは言う。「最初は冗談みたいなものだった。でも、その冗談は本気だった」・・・