ダチョウはアホだが役に立つ

ダチョウはアホだが役に立つ

 ダチョウってこんな鳥だったなんて、面白いエピソード満載でした。

 

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 ダチョウという鳥はびっくりするほどアホです。重傷を負っても気にしないぐらい鈍感だし、自分の家族は一瞬でわからなくなるし、どれだけ世話しても人間の顔を覚えないし……。

 おまけに気が荒くて、何が気に食わんのかようキレる。僕も今までどんだけダチョウに負傷させられたか。将来的にはひざに人工関節を入れなくてはいけないくらいの大ケガもしています。

「それやったら、なんでそんなアホな鳥とずっとつきおうてんねん」とツッコまれそうです。1つには単純にダチョウが好きなんです。

 僕は子どもの頃から、超がつくほどの鳥好きでした。ダチョウは鳥の中では世界一大きく、たぶん世界一アホです。世界一はなんでもカッコええやないですか。

 しかしいちばんの理由は、もっと違うところにあります。ダチョウは人間を救うとんでもないパワーを持ってるんです。

 実はダチョウは、めちゃめちゃ僕らの役に立ってくれる。花粉症やアトピーをはじめ、インフルエンザやノロウイルスなど、さまざまな疾患や感染症から人間を守ってくれます。

 なんでダチョウにそんなすごいことができるかというと、ダチョウには並外れた免疫力があるからです。メスに無毒化したウイルスを注射すると、ウイルスに対する抗体が体内で猛スピードで作られ、それが卵に送り込まれる。ダチョウの卵は地球上でいちばん大きいです。そのデカい卵にたっぷり抗体が含まれて産み出されるというわけです。

 僕は2006年に、ダチョウの卵から抗体を大量生産する方法を確立しました。その後MERS(中東呼吸器症候群)やエボラ出血熱など、危険な感染症が流行るたび、すぐに抗体を作り、世界各国で感染予防に役立ててきました。

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 2019年に新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックが始まると、世界に先駆けて新型コロナウィルスの抗体の精製に成功しました。さすがダチョウさん、ようやった!・・・

 これをダチョウ抗体マスクに配合し、医療関係者をはじめ多くの方に役立ててもらっています。アメリカでは、まだ承認されていませんがダチョウの卵から精製した抗体が治療薬としても使われています。

 

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 ダチョウという鳥は、ホンマにアホです。どれくらいアホかというと、自分の家族もわからんのです。

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 たとえばA家のオスが、メスと子どもたちを引き連れて歩いているとします。そこに違う家族の一団、B家がやってくると、場合によってはオスどうしが喧嘩を始め、大騒動になります。

 あるいは音に対してけっこう神経質なところはあるので、たまたま大きな音が鳴ったりしただけでもパニックになり、両家入り乱れて大騒ぎ。

 騒動が収まり、「やれやれ」と群れに戻るとき、どういうわけかA家とB家はごちゃまぜになり、違う組み合わせになっていたりします。・・・それでも誰も、気がつきません。つまりオスは、自分のヨメさんの顔も子どもの顔も覚えてないわけです。

 ヨメさんもヨメさんです。ダンナの顔も覚えてなければ、他人の子どもと自分の子どもの区別もつかない。さっきまでは子どもが5羽だったのが7羽に増えても、あるいは3羽に減っても気がつきません。数の概念もないんですね。

 ・・・神戸のダチョウ牧場で初めてこの現象を見たときは思わず声が出ました。

「そんなアホな……」