むしろ、考える家事

むしろ、考える家事

 タイトルって大事ですね。思わず、何が書いてあるんだろう?と手に取りました。

 

P12

 家事時間をネガティブに定義して、感じないようにしたり、短くするようにしたり努めるのではなくて、ポジティブに捉えて、楽しい考えごとに使い、仕事をしている人以上に、家事で成長しようとしたっていいのではないか。

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 ・・・社会参加は仕事でしかできないと思い込んで、「人間は全員、仕事だけをしたがっている」「家事は押し付けられた人が行う業務だ」と、つい決めてかかってしまう。だが、現代や未来において、仕事の意味は変化している。給料をもらうことを仕事とする定義は一般的ではなくなりつつある。金の移動ではなく、雰囲気の移動が経済活動になっていく。主婦や主夫だって社会人だ。介護者や育児者やボランティアや学生や引きこもりの人や休職者や後期高齢者だって社会人なのだ。

 

P71

 現代では主夫も増えてきたが、「本当は働きたいに違いないのに、奥さんの仕事欲を尊重して、家事担当になってあげたんだな」と、世間は同情の視線を主夫に向けがちだ。「家事をやりたかったのにできなかったかわいそうな人たちがいる。限られた人だけが家事を楽しみ、特定の性別の人を外に追い出して悪かった」という悔いだって、あっていいはずなのに。

「実際には、みんなが心の内に家事欲を持っているのではないか」と私は推察している。性別に関係なく、家事欲をうったえる人は結構いる。たとえば、事故や病気で以前のように体を動かせなくなった人が「自分で身のまわりのことをやりたいから、リハビリを頑張っています」と、若いときと同じ行動ができなくなった高齢の人が「でも、自分の好きなように料理をしたいし、自分のやり方で掃除をしたいから、工夫しています」と話しているのを聞くことがある。易々とやれている時期は嫌々やっていた家事でも、できなくなったあと、「自分でやることには喜びがあった」と思うものなのかもしれない。私も、今は「面倒だな」と考えている家事を、のちのち「あれは楽しかった」と思い返すような気がする。

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 「出かけること」「他人と会うこと」だけがオンで、「ひとりで作業をすること」「頭の中だけで過ごすこと」はオフだと世間から思われていないか?

 執筆は、家事と似ている。どちらも家の中で、もくもくと考えごとをするだけだ。これを、「社会活動だ」と、「生きているんだ」と私はうったえたいのだ。

「ひとりの作業」も、「ただの考えごと」も、立派なオンだ、と私は反駁したい。

 家事もオンだ。人といっぱい会う人だけが成長するのではない、出かける人だけが社会を回しているのではない。

 家の中で考えごとをして、社会の雰囲気を作っているんだ。買い物時の判断が、環境破壊にストップをかける。SNSでの発信で、どの企業が育っていくかが決まる。備蓄が非常時の混乱を穏やかにする。選択が社会を清潔にする。水まわりの掃除が病気の蔓延を食い止める。

 家事をやっている人も日々成長して、社会を動かしているぞ。

 家事も楽しいんだぞ、と叫びたい。

 

P127

 給料をもらったときに、「ああ、仕事をして良かったな」と考えることや、お客さんから「ありがとう」と言われたときに、「ああ、労働が報われた」と考えることは、もう古い。

  現代や未来においては、仕事の概念が変わっていく。

 収入や感謝で仕事の良し悪しを判断する時代は終わったのだ。多様性の時代に、他人の評価はいらない。基準なんてないのだから、他人と比べずに、自分の仕事をこつこつ進めるしかない。自分で自分の仕事の良さを認識して、自信を持てばいい。

 AIやロボットの発展で、収入のない仕事がもっと増える。真の仕事の意義は、金にはないということにみんなが気がついていく。もう、金や「ありがとう」のためになんて動かない。

 

P170

 たとえば、「子連れ旅行で夫だけがリラックスしているのはおかしいのでは?」というのは、私が旅費を払っているというおごりから生まれた発言だった、と今になっては思う。そして、もしかしたら、それはこれまでも多くの人が感じてきた疑問で、「だって、夫に旅費を出してもらったから」と我慢してしまい、発言されることがなかったのではないか?多くの人が、それ以上考えるとつらくなるから、なんとか思考停止に持っていって、旅先でも家事や育児を黙々とこなしてきたのかもしれなかった。

 だが、これからの時代では、金のあるなしが、発言権に関わってはいけない。

 金を出していない人も、言いたいことを言い、やりたいことをやるべきだ。それが、人間関係だ。成熟した社会というものだ。

 誰が働いて得た金かなんて、これからは誰も気にしない。

 これまでの人間は、家事に革命を起こして家事から解放されようとしてきた。だが、これからの人間は、家事で革命を起こして経済の概念を変える。「家事をやっているなんて、すごいね」という社会にしてしまえ。金を生み出さなくとも、胸を張る。

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 金を稼ぐのは、ロボットやAIにもできる。だが、家事をしながら考えごとをするのは、あまりにも人間らしい行為だから、ロボットやAIにはできまい。

 これからは、仕事よりも家事の時代だ。

 未来では、多くの職業がなくなって、給与がなくなり、ベーシックインカムが導入され、ついでにキャッシュレスが進み、金のイメージが変わるかもしれない。そのあとには「人間らしさ」が問われるだろう。思索が重要になる。

 家の中で手を動かしながら、私たちは「人間らしさ」を極めるのだ。