空想こそが、夢を現実にする

ブレスト (角川文庫)

 ヒット作を出し続ける川村元気さん、「いつも『集合的無意識』を大切にして映画を作っています。『みなが感じているけれども、なぜだか言葉になっていない』ものを表現したいと思っているんです」とあって、なるほど~と思いました。

 

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 最高の空想と最悪の空想を往復しながら、企画や物語を日々考えている。

 これは、そんな僕の空想が生み出す「ブレスト」をまとめた本だ。

 ブレスト(Brainstorming)とは何人かで集まってアイデアを出し合うことで、新しい発想や問題の解決方法を導き出す手法。

 僕はこれをひとりでやる。

 まずハリウッドの巨匠たちのインタビューを読み、メイキング映像を見て、ありとあらゆることを勉強して、その人生や思考をトレースし、その人物を空想の中に作り上げる。空想上のハリウッドの巨匠と「ブレスト」しながら、新しいアイデアを生み出していく。

 少しでも多く学び、多く考え、アイデアを撃ち合う。

 最高のものを作って、最大にヒットさせる方法を見つけていこうとする。

 これは、そんな僕の「ブレストたち」を記録した、すこし風変わりな本だ。

 ・・・

 ・・・僕自身も、巨匠たちとの空想会議を綴るなかでわかったことがある。

 今まで自分が何に着目して企画を立ち上げ、どうやって仲間を巻き込み、問題や課題と向き合いながら、ものを作ってきたのか。

 そのインプットとアウトプット、考えることと伝えること、それらにおける「自分なりのクセ」がわかったような気がする。

 そして、たとえ空想でも本気でやれば、現実となることを知った。

 いま僕は、この「はじめに」をハリウッドのホテルで書いている。

 明日、サンタモニカのバッド・ロボット・プロダクションズで、J.J.エイブラムスとマーク・ウェブ、そしてエリック・ハイセラーと『君の名は。』のハリウッド実写映画の打ち合わせがある。

 この「ブレスト」を始めた八年前は、まさかこんな日が来るとは思わなかった。すべて空想で終わると思っていた。けれどもその後、ピクサーのクリエイターと仕事ができたし、ギレルモ・デル・トロソフィア・コッポラと企画の話をすることができた。空想していたことが、ひとつずつ現実となっていった。

 今改めて思う。

 空想こそが、夢を現実として手繰り寄せる手段なのだと。