裏方として場所を守る

しょぼい喫茶店の本

 開店時間も、閉店時間も、そのときの自分の調子次第。メニューもたくさんあると大変だから、作れるものだけ。そんな営業形態が話題になって、初めはお客さんが来てくれたそうです。

 うまくいきかけて、その勢いが止まって、それでもなんとか…という時期に、こんなことを考えたと書いてありました。

 

P130

 僕は就職活動に失敗して喫茶店を開いた。それもたくさんの人の力を借りて、出資までしてもらって。店をつくってネットで話題になって、ほんの数か月売り上げがあったというだけで、自分が何かを成し遂げたんだと思っていた。自分は立派な起業家で優秀な経営者なんだと思い込んでいた。何者かになれたんだと、僕はすごいんだと信じて疑わなかった。

 忘れていた。僕はドロップアウトした人間なんだということを。・・・

 ・・・

 このままじゃ潰れる。本気でそう思った。・・・

 ・・・ものすごく情けなくて仕方なかったけれど、でも、情けないと思ったところで僕が僕であることに変わりはない。どうしようもないことを受け入れて、それを少しずつどうにかしていくしかない。僕は立派な起業家でも優秀な経営者でもない。就活に失敗してしょぼい起業をした経営素人なんだ。

「どうにかなる」と自分に言い聞かせながら、いろんなことを試してみよう。・・・

 ・・・

 20年以上自営業を続けている父は、毎朝誰よりも早く出社し、毎晩誰よりも遅く退社すると言っていた。・・・

「みんなの仕事を作っておくのが社長の仕事。楽しいところだけを楽しくやってもらえるように、一番長い時間ほうきを持っているのは社長じゃなきゃいけない」

 父は何度も僕にそう言っていた。・・・「働かせてやっている」という意識ではなく、「働いてもらっている」という意識があったのだと思う。

 僕も同じだった。店を夜まで開けておくことも、そこに毎日人を呼んで売上げをつくることも、僕にはできないとわかっていた。それに、掃除をしている時間が機会損失になるほど、何かができるわけではないことも知っていた。

 だから、働いてもらっている僕は掃除をした。楽しいとまでは思わなかったけれど、父の言っていたことが理解できるようになったのが、少し嬉しかった。夜営業に入ってくれる人たちが、「今日も楽しかった」と言ってくれたり新しい企画を考えてくれたりすると、自分のやっていることが間違いじゃないんだと思えた。