宇宙飛行士選抜試験

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

 すごいなぁという言葉しか出てこないほど、頭も体も心も、なんというんでしょう、バランスが良くてたくましくて・・・ほんとに〝人間力〟がすごいなぁ、と驚きつつ読みました。

 

P4

 ・・・なぜ、私たちは、「宇宙飛行士選抜試験」に密着したかったのか?

 その理由はただ一つ。「宇宙飛行士」という職業に就く人間は、世界でも数える程しかいない。いわば「人類代表」である。そうした、天才とも超人とも思われる宇宙飛行士が選ばれるプロセスそのものへの興味と、想像を絶する激しい競争が見られるのではないかという大きな期待があったからだ。

 しかし、およそ1年がかりで追い続けた宇宙飛行士選抜試験で我々が目にしたものは、超人が華々しくその天才ぶりを発揮する姿でも、凡人には理解できない難解な試験が繰り広げられる光景でもなかった。

 あえて短い言葉で表現するなら……

 どんなに苦しい局面でも決してあきらめず、他人を思いやり、その言葉と行動で人を動かす力があるか

 その〝人間力〟を徹底的に調べ上げる試験だったのである。

 

P256

 ・・・始まった取材で、私たちが目の当たりにしたのは、宇宙飛行士という職業が持つ〝牽引力〟であった。

 最終選抜に残った10人は、いずれも才能あふれる若者だった。パイロット、医師、研究者。誰もが、それぞれの分野で重要なポストにあって大きな職責を担い、将来を嘱望されていた。その彼らが今の仕事とキャリアを捨てて、宇宙飛行士になろうとしている。

「今さら、どうして?」。そんな疑問を持ちながら取材をしていると、あることに気づいた。今の彼らがあるのは、宇宙飛行士という夢をあきらめず、追い続けてきたからだ。宇宙飛行士という仕事への「憧れ」が、彼らの人生をここまで引っ張ってきていたのだ。