自分の薬をつくる

自分の薬をつくる

 疲れないで日々過ごす、無理をしない、ということが、けっこう難しいもんだなと思っていたところにこの本を読んだので、とても参考になりました。

 

P249

 私自身も躁鬱病と診断され、それで薬を飲んでいましたが、それでもなかなか治らなかったので、これはなんとかしないといけないと思い、自分で薬をつくりはじめたのです。

 ・・・

 そのために、まず私がやったのが、病名をつけないということですね。もちろんすでに診断はされていましたが、それでも医師からの命名で完全に自分を決めていくのではなく、自分からも「声」を出すということなんです。

 誰かに自分の症状や辛さを訴えるための「声」ではないんです。誰かを納得させたり気づかせたりすることが目的ではないんですね。

 ・・・

 自ずと出てくる声。

 私の場合で言うと、

「その日の気分で興味関心が移ろっていく」

「一点集中するよりも、ながら作業をしながらあれこれやっていた方が進む」

「大勢で飲むのは苦手だけど、一対一で喫茶店などでゆっくり話すのはとても好きだし、気持ちが落ち着く」

「人前に出て、舞台に上がって一人で話すのは好きだけど、実は普段は一人でいる方が楽」

「やりたくないのに、付き合いとかでやらないといけないものがあると、数日前から体調を崩すので、そういうものははじめから行かないと決めていた方がめちゃくちゃ楽」

「飲み会によく行っていたが、実は飲み会そのものに関心がなく、早めに家に帰ってきて夜九時に寝るようになると、穏やかに過ごせる」

「家族といえども、人のペースに合わせるのが苦手なので、とにかくまずは自分のペースで動くようにした方がとにかく楽。だから朝方生活に切り替えて、家族が起きてくる頃に仕事を終わらせるようになった。終わらせたらストレスを感じないので、今度は人のペースに合わせることができる。ご飯を食べる時間なども、他の人がダラダラしていて時間が遅れてしまうと落ち着かなくなるので、時間を決めて、他の人がダラダラしていても、一人で食卓で食べた方がとても楽。他の人も気にしないでいいことを知ったらとても楽そうに見えた。寝るときも川の字でみんなで寝ていたが、寝る時間が他の人は遅いので、自分の部屋で夜九時に寝るようにすると、ストレスがなくなった」

「人に会うのが好きだと思っていたが、実は人に会わずに電話で対話するくらいがちょうどいい」

「午後三時から午後六時までの光を浴びると、なぜか落ち込んでしまうので、まったく光を浴びないようにアトリエにカーテンを閉めてこもって絵を描くようにしたら、一切落ち込まなくなった」

「土日は子どもたちが休みだから、スケジュールを変えていたが、それだと自分が疲れてしまっていた。そこで、毎日の日課を土日も変わらず続けてみたら調子がよくなった。朝一〇時からお昼三時までは土日でもフリータイムにしているので、その時間に子供と遊べば、子供達も満足してくれて、両者ともストレスがなくなった」

「妻が常にいる台所で、自分が手伝おうとすると、うまくいかなかったが、台所も自分もやりやすいようにセッティングしなおして、手伝うというよりも、自分のペースで一人で料理をするようになったら、むちゃくちゃ楽だったし、料理の楽しみを覚えた。そうすることで、台所の掃除も積極的にやるようになった。同じことで、妻の畳み方で洗濯物を畳もうとしてもうまくいかなかったが、自分の方法でいいと知ると、どんどんやれるようになった。そうやって一人でやることで手伝えることを知ったら、とても楽になった」

「休み時間ができると、とにかく横になって心臓を休ませると、体が楽になった。躁鬱病というよりも、これは心臓の鼓動の問題だなと知っていった。躁状態と呼ばれるときは鼓動が早くなり、うつ状態と呼ばれるときは鼓動が遅くなっていた。横になるのは、どちらも心臓の鼓動を安定させるとても良い方法だと知った」

 このような細かいことを、一つ一つ声にするようになっていったんですね。自分に対して声をかけるような感じです。

 そして、そのことが体に入っていったら、まわりの人に伝えるようになった。すると、まわりの人も、あ、そうなんだ、わかったよ、と受け入れてくれた。

 ・・・

 声にすればするほど、私は自分が病気というよりも、少しだけ特徴のある体であるというくらいに思えるようになっていきました。

 ・・・

 私たちにとっての最良の薬は、つまりこの「声」なんです。