身体の言い分

身体の言い分(毎日文庫)

 内田樹さんと、整体師というのでいいのでしょうか、独自の手法で施術される池上六朗さんの対談本を読みました。

 

P187

内田 「取り越し苦労をしてはいけない」というのは、言葉は簡単ですけれど、じつはすごく難しいし、重要なことだと思うんです。ぼくの師匠の師匠に当たる中村天風先生の教えに「七戒」というのがあって、それは「怒るな、恐れるな、悲しむな、憎むな、妬むな、悪口を言うな(言われても言い返すな)、取り越し苦労をするな」というんです。最初、聞いた時に「取り越し苦労」ってそんなに危険なものかなあと、よくわからなかったんですね。いいんじゃないかな、少しくらい先の心配をしたって。でも、ある程度年をとってくるとだんだんわかってくるわけですよ。取り越し苦労って、かなり危険なものだということが。これは、怒りや嫉妬と同じくらい人間の心身を蝕む有害なものなんです。取り越し苦労って、要するに、時間を先取りすることだから。時間を先取りして、まあこんな程度のことが起こるのであろう、とある程度の未来予測をして、さらにその未来予測の中のネガティブなファクターだけを拾い出してゆくことが取り越し苦労ですからね。・・・起こるか起こらないかわからないことのうちのマイナス要素だけを確実に起こることだと思い込んで苦しむわけですから。・・・違う見方をする人には違うふうに見える。

 

P233

内田 ぼく、子どものころ不眠症だったんです。子どもの時って、将来のことを考えるでしょう。この先どうなるんだろう、って。ひどい時は、このまま宇宙は滅びるんだろうか、とかね。心臓がドキドキと鼓動している時に今のドキの後に、次にドキはちゃんと来るんだろうか、とか考え出すと、不安でしかたがない。・・・子どもの時ってね、怖いんですよ。未来の未知性というのに耐えられない。二度目の不眠症は四十歳くらいの時。理由はいつも一緒なんですよね。自分がコントロールできるはずのないことをコントロールしようとして、それができるわけがないんで、無力感に沈んでしまう、という。

 ・・・

池上 ・・・考えて解決することだったら考えますけれど。わたしは今六十八歳ですから、「考える」ということがわかるようになって、まあ六十年くらい経っていると思うんですが、考えて解決したことなんか一つもないですよ。「悩み」ってなんだかよくわからない(笑)。たとえば人にお金を貸して返ってこない。すると、この事業がだめになってしまう。だったら貸し手に返してもらうか、事業をやめるか、どちらかですね。

 ・・・

 そうするとどちらが楽かな、と考えるんです。・・・そうやって決めてしまえば、もう悩みではなくなってしまいますよね。悩みじゃなくて問題なんですよ。問題と悩みというのは、わたしは分けて考えているんです。

 ・・・

 問題だったら、自分で解くことができます。・・・患者さんも、自分で治せる人しか引き受けない。あ、この人は自分には難しいな、と思ったらほかの先生のところに行ってもらう。「あなたはわたしのところじゃないと思いますよ」とか言うんですけれどね。

 ・・・

 そうしないと、たぶん悩みが起こると思うんです。・・・