読みながら、どんな人にも最適な環境が与えられたら、この世界は素晴らしいことになるだろうなと思いました。
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クリケット・クラブのヘッドコーチになり、コミュニティを築こうと誓ってからちょうど10年目、改めてコミュニティの意義を考え直そうと思い立ちました。そこで私は自分自身のために、またコーチたちにもこの「コミュニティ」というゴールを再認識してもらうために、ミーティングを開きました。・・・
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すると、それぞれのコーチからさまざまなワードが飛び出しました。
「支援、幸福、礼儀、優しさ、気づき、常識、寛大、信頼、安全、生産的、成長、辛抱、コミュニケーション、理解……」
・・・実際には何が正解というものでもありません。すべてのコーチが、コミュニティの意味を理解しようと考え、お互いを理解し、自分もこのコミュニティのメンバーの重要なひとりであると感じてほしかったのです。・・・
なぜ、こうもスケートの練習以外のことにこだわるのか。スケートを教える真の目的は、単に試合で勝たせることではないからです。競技者でいられるのは、人生前半のわずかな期間に過ぎません。しかも一流選手になれるとは限りませんし、将来スケートにかかわる仕事をするとも限りません。コーチとして働く私たちはスケートにかかわる人生が当たり前になっているので、このことを忘れがちですが、人生がスケート一色になって幸せかどうかは、生徒に選ぶ権利があります。だからこそ私とトレーシーは、このリンクを去ったあとの選手の人生が豊かであってほしいと考えているのです。
勝利だけを目指して練習していたら、コーチや両親が自分をサポートしてくれるのが当たり前になり、自己中心的で、何でも人任せになり、周りに感謝できない人間に育ってしまいます。しかしコミュニティのなかで育っていけば、サポートに感謝し、選手もコーチもスタッフもそれぞれを尊重し合うことを覚え、それが社会に出てから役立ちます。目上の人と話すことで、きちんと挨拶ができて、相手に敬意を払える人物になってほしい。人間的に成長してほしい。自分への責任も持ってほしいのです。
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重要なのは、それぞれが力を発揮できる快適な場所を作り上げること。そこで選手もコーチも成長していくことで、単なる勝敗を飛び越えて、「新たなフィギュアスケートの領域を開拓する」という大きな潮流を生み出せるのです。・・・