わかってもらえても、もらえなくても

感覚過敏の僕が感じる世界

 困っていると伝えることは必要、ただ期待しすぎず、というバランス感覚、この若さでよく・・・と驚きました。

 

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「感覚過敏のある子どもが将来のために何を準備したほうがいいか」について、明確な答えを僕は持っていません。

 ただ、自分の困っていることを「困っている」と伝える力は必要だと言えます。

 おとなも子どもも年齢関係なく、人はなかなか「自分が困っていること」や「助けてほしいこと」を伝えません。それは、誰かに迷惑をかけたくないと思う気持ちが強いからかもしれませんし、そんなことを言って嫌われたらどうしようという不安からくるのかもしれません。

 ・・・僕は、まず自分が困っていることを伝えられるようになることが、感覚過敏だけでなく多くの困難をうまく処理できる秘策だと思っています。

 黙っていて誰かが察して手を差し伸べてくれることは少ないでしょう。何度も言いますが、他人の困りごとの多くは外からは見えないのです。

 SOSを出せるようになるには、自分の弱さを見せたり助けを求めたとしても、他人は自分が心配するほどに嫌な反応をしたり拒絶はしないというマインドセットが必要です。

 逆の立場で考えれば、誰かが困ってると発信しているとき、露骨に嫌な顔をしたり悪態をついたりしないでしょう。自分が弱い立場だと思ってしまうと、「助けて」「つらい」「困ってる」と発言することをためらってしまいますが、そんなあなたをほとんどの人は否定しません。

 そして、もう1つのマインドセットは、人は期待するほどには、理解したり協力したりはしてくれないということです。

 さきほど書いたことと矛盾するかもしれませんが、伝えて理解してもらえたり、協力してもらえたら超ラッキー、知ってもらえただけでもラッキーというくらいの気楽な感じでいることも大事です。

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 もう1つできることがあるとすれば、発したSOSを受け止めてくれるコミュニティに身を置くことだと思います。家や学校や職場がそのような場所であればいいのですが、残念ながらそうではない場合もあります。そういうときのために、居場所をいくつもつくっておくことをおすすめしたいです。

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 僕は中学3年生のときから、遠隔操作できる分身ロボットOriHimeをつくっているオリィ研究所の所長、吉藤オリィさんが主宰されている「オリィの自由研究部」というオンラインコミュニティに参加しています。

 メンバーは、病気や障害がありながらも前向きに生きていらっしゃる人や、孤独の研究をして寝たきりや障害がある人の生き方や働き方を創造しているオリィさんを応援する方々です。

 僕はこのコミュニティで、主宰者のオリィさんをはじめ、たくさんのおとなに出会い、真面目に障害をテクノロジーで解決できる未来を語ったり、発明アイデアを考えたりする一方で、一緒にVRやゲームで遊んだりしています。

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 ある日、コミュニティメンバーの家でカレーを食べる機会がありました。カレーがおいしいと評判の人なのです。

 僕も食べてみたいと思いながらも、心の中に「食べられなかったらどうしよう」という不安がありました。「せっかくの自慢のカレーを食べられなかったら嫌われてしまうかもしれない」と思ったのです。でも、僕が味覚や食感で食べられるものがほとんどないことを知ってもらえている状態です。残してしまう可能性が多かったけど、食べてみたいと伝えました。

 結局、僕は食べられませんでした。でも、素直に伝えたら、カレーチャーハンをつくってくれました。そして僕はカレーチャーハンをおいしくいただけたのです!

 このように、自分の不安やできないことを受け止めてくれる人が家族以外に増えていくことが、子どもの将来の準備として大事なことだと思います。

 僕が運営している感覚過敏コミュニティも、感覚過敏がある人や家族にとって安心できる居場所の1つになればいいなと思っています。

 

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