フィギュアスケートってこんなにすごい競技だったんだと今さら知り(;^ω^)、ハマって色んな本を読んでいます。
こちらはずっと取材を続けていて、時々大会でボランティア通訳に駆り出されるという田村明子さんの本。
世界中に報道されることを踏まえての通訳、すごいなぁと思いました。
P140
2017年3月、ヘルシンキで開催された世界選手権の男子では、日の丸が並んで二つ揚がった。
・・・宇野昌磨である。
シニアデビューを果たしてわずか2年目、当時19歳の表彰台。正直に言えば、彼がここまでの速さで成長してくるとは、予想していなかった。
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あれよあれよという間にジュニアGPファイナルチャンピオン、そして日本男子として史上5人目の世界ジュニア選手権チャンピオンになったのである。
意外と思われるかもしれないが、世界ジュニアチャンピオンのすべてがシニアにすんなりと上がっているわけではない。
過去20年間の男子世界ジュニアチャンピオンの中で、シニア世界選手権の表彰台にたどり着いた選手は、宇野を除くとたったの4人しかいない。
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・・・宇野はその意味でも、日本男子スケート界を引き継ぐ後継者なのだ。
「スケートが楽しくなったのは、ここ数年です。それまでは、やらされているという感じだった。アクセルが跳べなくてなかなか上位に行けない中で、シニアで戦えるようになったことが楽しかった。跳べなかった期間つらかった分、今が楽しいんじゃないかなと思います」
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ヘルシンキの記者会見で、日本の記者から「羽生選手を追いかけてきたと思うのだが、どのような気持ちで追いかけて、来年はどのようなことを見せたいのか」という質問がされた。
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「今のぼくが練習をしているときのモチベーションというのが、ユヅ君に勝てるような実力をつけたい、ということ。それだけがモチベーションで、これまでも(練習)してきてこれからもしていく。来年もそれを変えずにいきたい。まだまだ何もそろっていない、身につけていない自分なので、今までどおり成長していけるように頑張りたいと思います」
とても興味深い答えだったけれど、私の中で赤ランプが点滅した。
「ユヅ君に勝てるような実力」を、馬鹿正直に「abilities to beat Yuzuru」(ユヅルに勝つ実力、能力)と訳したら、宇野はおそらく世界中の羽生ファンから憎まれることになってしまうだろう。
beatという言葉には、「勝つ」と同時に「叩きのめす」という意味合いもある。
普段使っている分には特別悪意のある言葉ではないのだが、これは下手に訳すと誤解されかねない状況だと判断し、咄嗟に to exceed Yuzuru's skating と訳した。
exceedは「越える、上回る」という意味になり、おそらく本来の宇野の言葉の意図に最も近い。
にわかボランティア通訳は、こうして常に冷や汗をかいている。