チャンスで輝く

もう一度、プロ野球選手になる。

 こういう発想で行動してくれる選手、やっぱりもう一度、ぜひとも見たいです。

 

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 前に話した通り、チャンスになるとぼくは自分でも信じられないくらいの力を発揮する。

 大一番×超満員×大チャンス=SHINJO劇場。

 この公式が、おもしろいくらいハマった打席がある。

 あれは日本ハム移籍1年目の、ダイエーとの首位攻防戦。

 球界再編問題から発展した、日本球界初となるストライキ明けの初戦だった。

 ・・・

 この試合に、ぼくはパフォーマンスを用意して臨んだ。

 ストで試合がなくなったことで、たくさんのファンをがっかりさせてしまったと思ったからだ。とくに「子どもたちには申し訳ないことをした」と思ったぼくは、ストの合間にかぶりものを探してきて、秘密戦隊ゴレンジャーをやることにした。

 つまり、ストをしてゴメンジャー。

 ぼくたち選手は、ストになってしまってファンのみんなに申し訳ないと思っている。その気持ちをパフォーマンスにして伝えたかったんだ。

 パフォーマンスは盛り上がったけど、試合は思い通りにはならなかった。

 ・・・

 壮絶な乱打戦。9回裏を迎えたとき、スコアは9-12になっていた。

 この日の日本ハムは、みんなが〝チャンスに強い新庄剛志〟のようだった。信じられない集中力でヒットをつなぎ、瞬く間に12-12の同点に。しかも二死満塁で、ぼくに打席がまわってきた。

 あのときもぼくは、ベンチでひとり念じ続けていた。

「俺がヒーローになる、ヒーローになる、ヒーローに……」

 頭の中には、それだけしかなかった。

 そして、たしか初球だったと思う。来た球に、身体が自然に反応した。打った瞬間、それとわかるサヨナラ満塁弾。信じられない瞬間。それからの数秒間は、ほとんどおぼえていない。

 われに返ったとき、ぼくは一塁ランナーの田中幸雄さんと一二塁間で抱きあっていた。前のランナーと入れ替わってしまったから、その時点でアウト。その前に三塁ランナーがホームインしていたから決勝点が認められ、サヨナラ勝ちになった。

 ぼくが打ったサヨナラ満塁ホームランは、シングルヒットとして記録に残ることになった。打点は4じゃなくて1。試合後、幸雄さんはぼくに「新庄、ゴメン!」とあやまってくれたけど、ぼくは全然気にしなかった。だって、こんなに記憶に残るシングルヒット、ほかにある?間違いない、100年語り継がれるよ!

 奇跡のようなサヨナラ勝ち。誰もが狂喜乱舞する札幌ドームのお立ち台に上がって、ぼくはこう叫んだ。

「今日のヒーローは、ぼくじゃありません!みんなです!」

 これ、心からそう思っていたんだ。

 だって、ファンが多ければ多いほど、舞台が盛り上がれば盛り上がるほど、ぼくはパワーが出るからね。あの奇跡のシングルヒットは、札幌ドームに来てくれた4万2000人の思いがぼくに乗り移って生まれたんだ。