こちらも、人となりがすばらしいなと感じた本でした。
新庄剛志さんがメジャーで活躍していた間、通訳をしていた方が書いた本です。
P104
昨シーズンはこんなこともあった。プレーオフ進出を決めた翌日の最終戦、400打席にあと6打席足りなかった新庄剛志は6番センターでスタメンだった。試合前のベンチでは、ダスティ・ベイカー監督がめずらしく彼に詰め寄った。
「なぜ黙っていた!あと6打席だろ!そしたら今日だって1番に入れたのに!」
400打席のインセンティブ(報奨金)契約を結んでいた新庄剛志は、数十万ドルのボーナス獲得にあと6打席必要だった。しかし、彼はいつもの笑顔でこう切り返した。
「チームが最後まで(ワイルドカード枠を)争っていたから、僕の個人的なことでわずらわせたくなかったんです」
最終戦、新庄剛志は走った。未来を担う輝くルーキーのために。メジャー初スタメンだったコーディ・ランサムは、レフト線に2塁打を放った。1塁ランナーの新庄剛志はセカンドベースを蹴った辺りからギアをトップに入れ、ものすごいスピードでホームベースを駆け抜けた。渓流を切り裂くイワナのように速かった。
8回裏には2002年の開幕を1Aで迎えたランスフォードが代打で登場した。ふたたび1塁ランナーだった新庄剛志は、右中間に飛んだランスの打球には目もくれず、すごい形相でホームベースにすべり込んだ。ドロだらけの左膝を切りながら。
数千万円のボーナスを自ら放棄し、若手2人のメジャー初打点になりふり構わず全力だった新庄剛志は、結局、最終戦では4回打席に立ち、2002年のシーズンを398打席で終えた。わずかに足らない「2打席」を気にとめることもなく、いわば消化ゲームの誰にも評価されない「2得点」に挑んだ。若い2人の「メジャー初打点」のために。
試合後のクラブハウスでは、アトランタとのプレーオフをにらみ意気あがるナインとは対照的に、即座にロッカーを空っぽにして、秋季リーグに向かうコーディとランスが、そろって新庄剛志に声をかけた。
「Thank you,Shinjo.You're my hero!」
(サンキュー新庄、あんたは僕らのヒーローだぜ!)