得意なものを出しあって

もう一度、プロ野球選手になる。

 人それぞれ、みんな違うからこそできること、大事だなと思います。

 

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 プロ野球の世界は、さまざまなタイプの選手が集まっている。

 小技がうまくて足が速い選手もいれば、守備は超一流という選手もいる。

 ホームランはガンガン打つけど、守りはからっきしという選手もいる。

 それぞれタイプの違う選手の組み合わせによって、いいチームができることもあれば、まったく勝てないチームになってしまうこともある。

 このあたりがチームスポーツ、野球のおもしろいところ。

 メジャーでの2年目、ニューヨーク・メッツからサンフランシスコ・ジャイアンツに移籍したぼくは、バリー・ボンズと一緒に外野を守ることになった。

 ぼくがセンターで、彼がレフトだ。

 ボンズは言わずと知れたメジャーのスーパースター。

 バッティングでは、彼の右に出るものはいない。

 ただ、守備はお世辞にもうまくない。

 若いころは守備もうまくて、ゴールドグラブ賞を8回も受賞したけど、一緒にプレーしたときは30代後半。動きが緩慢に見えるときもあった。

 バリーと外野を守ることになって、ぼくは素直に「これはおもしろいことになった!」と思った。

 というのも、お互い得意なものが正反対だからだ。

 バリーはバッティングが大好きで、守備にはあまり興味がない。

 一方のぼくは守備が大好きで、バッティングは守備に比べると苦手。

 ということは……。そこでぼくはひらめいた!

 ぼくがバリーの守備を助けて、彼にはバッティングに専念してもらおう。そう思って、こう提案したんだ。

「バリー、きみの左に飛ぶ打球は俺が全部捕るから、きみは右の打球だけ捕ってくれ。あとは打つことに集中してほしい」

「オッケー、バディ(相棒)」

 守備の負担が減って、バリーは嬉しそうだった。

 実際に、わずか左のフライにもまったく反応せず、ぼくが全力で走ってランニングキャッチしたことがある。

 約束だから、捕らないわけにはいかない。

 ぼくはシーズンを通じて、その約束を守った。

 そしてこのシーズン、バリーは大爆発する。

 38歳という年齢で、キャリア初の首位打者に輝いたんだ。

 それはもちろん、チームの躍進にもつながった。

 世界一は逃したものの、ジャイアンツは13年ぶりにワールドシリーズに進出した。

 充実のシーズンが終わって、バリーはタイトルの陰にぼくの協力があったことをメディアに明かした。

「ジャックがオレの打球を捕ってくれたおかげで、打席に集中できた」と。

 ジャックというのは、もちろんぼくのニックネーム。

 得意なことと苦手なことは、人それぞれ。

 互いに得意なものを出しあうことで、人は輝き、チームもうまくまわるんだ。