チャンスは「チャンス」という札をつけてやってきてくれないって、まさにその通りで、おもしろいなと思いました。
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ツイていない。チャンスに恵まれない。このように嘆く人がいますが、ほんとうにそうでしょうか。私は、そういう人を見るたびに、それはチャンスに恵まれないのではなく、チャンスに気づいていないだけではないかと思ってしまうのです。
私が、アメリカの大学の医学部に留学した当初のことです。
・・・目立った成果はあげられず、私は少しくさっていました。そのとき、声をかけてくださったのが、風変わりな先生として知られたスタンレー・コーエン先生でした。
のちにノーベル賞を取る先生なのですが、当時の先生の研究室はみすぼらしく、医学部の中でもっとも小さくしょぼくれていました。
・・・研究していたのは、マウスの成長ホルモンについてでしたが、周囲の注目を浴びることもあまりありませんでした。
・・・
・・・あるとき、先生が意外なことを言い出しました。研究しているマウスのホルモンは成長に関係するだけではなく、血圧にも関係しているらしいというのです。
そこで私たちは、一年間、成長ホルモンが血圧上昇ホルモンと同じものかどうかという研究を続けました。
その結果、何のことはない、先生の勘違いだったということがわかりました。先生ご自慢の成長ホルモンの純化が不十分だったため、成長ホルモンと血圧ホルモンとは無関係だということが判明したのです。
しかし、「純化できていなかった」のが、私には幸運でした。
純化できなかったために、少しだけ混じってしまったものがあり、それこそが、血圧を上げる原因となる酵素「レニン」だったのです。・・・それは、まさに「瓢箪から駒」とも言うべき大発見でした。
チャンスは、自ら「チャンス」と札をつけてやってくるほど親切なものではないというのが、私の実感です。必要なのは、チャンスを待ちわびることではなく、チャンスを見つけること、さらに言えば、現状をチャンスに変えることではないでしょうか。