村上和雄さんとのお話

花緑の幸せ入門 「笑う門には福来たる」のか?~スピリチュアル風味~ (竹書房新書)

 村上和雄さんとの対談も載っていました。

 ベートーベンのドイツ語の幻聴って、、、すごいエピソードだなぁとびっくりしました。

 

P109

花緑 村上先生は、ダーウィンの進化論には一部否定的で、動物は弱肉強食だが、人間はそうではないから発展したとおっしゃっていますが。

 

村上 今、コンピュータを使って人工生命の進化のシミュレーションが出来るんですね。ふたつのモデルを実験するんです。ひとつは自己中心の集まりで、エサはぜんぶ自分で独占しようとする弱肉強食モデル、もうひとつは適当に分けあうモデル。こうすると自己中集団は、はじめのうちは、ものすごく勢いを増すんですが、そのうち喧嘩がはじまって共倒れになる。

 一方の共存集団はなかなか増えていかないんですが、結果的にギブ・アンド・テイクが出来て残るんですね。

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 弱肉強食もあるんだけど、やっぱり助けあって生きている。細胞はほかの細胞と助けあっているから臓器になっている。さらに臓器もそれぞれの臓器で助けあって機能している。

 だから助けあいの遺伝子ってあると思うんです。「利他の遺伝子」。そのうち科学で説明が出来るようになると思うんです。

 情けは人のためならずで、情けは天への貯金みたいなもので、天に貯金があるということは、地上銀行と宇宙銀行があって、地上銀行はつぶれても、宇宙銀行はつぶれないんです。

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 ・・・格差でも環境でも、自分のエゴだけでこのままいったらダメになります。ビジネスでもそうだと思うんです。京セラの稲盛和夫さん・・・の起業精神は利他の精神です。いかに自分が儲かるかではなくて、世の中に役立つか。それが結果として儲けにつながっているわけです。

 

P168

花緑 ・・・先生にとって福って何でしょうか。

 

村上 出会いも福だと思います。あの時あの人に会わなければ、どういう人生だったろうかと考えることがあります。その出会いは意図したわけではなくて、たまたまなんですね。不思議なことに、そういう出会いは必然性があって、そのあとの助けになるんです。

 私は、京大の学生時代に平澤興先生・・・に出会いました。先生は当時の京大総長でした。この方にショックを覚えたのは、「自分は頭の回転が悪かった、だから勉強した」っていうんです。京大総長が……。

 私も頭がいいと思っていませんからね。そうしたら、「君、私がそうだから、頭がよくなくても大学に残れるんだよ」といわれて大学に残ったんです。その平澤先生は学生のころ勉強しすぎてノイローゼになるんですね。それで幻聴が聞こえてくる。その幻聴の主はベートーベンで、もちろんドイツ語です。

 その内容は、ベートーベンが25歳の時の日記なんですね。ベートーベンはそのころから耳が悪くなる。音楽家にとっては致命傷ですが、ベートーベンはそこから名曲を残していく。

 その日記の一文が「たとえ肉体に、いかなる欠陥があろうとも、わが魂はこれに打ち勝たねばならない」。これがドイツ語で聞こえてくるらしいんです。それで、平澤先生は「俺みたいにぼんくらが少々勉強したぐらいでノイローゼになるとはなにごとだろうか。あの天才ベートーベンはあの困難から名曲を残した。俺もやろう」とノイローゼが治るんです。

 遺伝子のスイッチがONになったんでしょうか。スゴイ人は、やっぱり違うんですね。私は、こういう先生に学生時代に会ったんです。ほんとうに偶然なんです。

 平澤先生は医学部の先生で、私は農学部の学生ですからふつうなら会うことがない。会ったのは呑み会でした。吞み会の席だから、京大の総長が「俺は馬鹿だ」、なんていってくれたんでしょう。その平澤先生が、「俺はほんとうに勉強してきたけど、命のことについては、なにも分からないということが分かった。ほんとうに不思議だ」っていわれたんですね。・・・