続うちの火星人

続・うちの火星人

 お父さん以外、お母さんも、娘2人も、息子2人も、発達障がいというみなさんの、日常生活の様々な工夫が、漫画と文章で紹介されている本です。ちなみに火星人というのはお母さんの発案で、一般的な人たちと感覚がかけ離れている自分たちのことを「日本人と外国人以上に遠い存在、言うなれば火星人ね」ということで名づけられました。登場人物も、お母さんがワッシーナとか、次女がリスミーとか、かわいい名前です。

 最近続編が出てることに気づいて読みました。1冊目同様、わかりやすく、充実した内容でした。

 こちらは「おわりに」に書いてあったお父さんのお話。「されど愛しきお妻様」の著者鈴木さんのように、この方も高次脳機能障害を患ったことで、初めて他の家族の大変さが身に染みたということでした。

 

P209

 ・・・2016年11月のこと。私が脳梗塞で倒れてしまったのです。

 それでも、たいへん運のいいことに1週間の入院と2カ月ほどの自宅療養で、半身麻痺などの運動障がいが残ることなく、回復に至りました。

 とはいえ、後遺症が何もなかったわけではありません。・・・

 何より驚いたのは、私の後遺症の多くが、わが家の火星人たちの特性と似通っていたことです。それは「高次脳機能障がい」と呼ばれるもので、・・・

 ・・・

 火星人の特性そっくりな後遺症に悩まされた私は、今度はわが家の火星人たちに救われるようになりました。

 次女リスミーとスーパーに買い物に行ったときのことです。陳列棚を眺めているうちに、私は急に気分が悪くなってしまったのです。フラフラして、まっすぐ歩くこともできない、まるでパンチドランカーのような状態でした。

「お父さん、下、床だけ見てて」

 異変に気づいたリスミーが、こう助言してくれました。そして、私の手を引いて、静かな場所へ連れて行ってくれたのです。

「目を瞑って。耳栓も。しばらくしたら楽になるはずだから」

 言われるがまま休んでいると、本当に30分ほどで何事もなかったかのように楽になりました。感覚過敏になった私には、カラフルな商品のラベルや値札、特売品を知らせる店内放送など、スーパーという環境は情報が多過ぎたのです。帰宅後、ワッシーナから「頭の中に飛び込んできたたくさんの情報を、脳がフル稼働で処理しようとして酸欠状態になったのよ」と教わりました。だから、目を閉じ耳をふさいで脳を休ませることで、回復できたのです。・・・

 ワッシーナからは「あなたは火星人の洗礼を受けたのね」と嬉しそうに告げられました。そう、大病を経て、私の脳も凸凹になったのです。後天性火星人と言ったところです。おかげで、火星人である家族のことを、これまで以上にリアルに理解できるようになりました。

 ・・・

 最後になりますが、すべての悩める火星人のみなさんに、ワッシーナのこの言葉を贈りたいと思います。

「普通のことができないからって、卑屈になんかならなくていい。普通という重力に縛られている不自由な地球人なんかより、私たち火星人はよっぽど自由なのよ!」