感覚の鋭さ

一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート (角川文庫)

 

 現役引退してからしばらく、パチプロで生活していた時期があるそうで、その話も載っていました。指先の感覚が鋭いといっても、ここまできたら超能力と呼んでもいいような?

 

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 一九九六年、三四歳で現役を引退した後は、もっぱら中京大学で選手たちの指導にあたった。

 会社も辞めた私がパチプロとして生計を立てることになったのは、この頃のことだ。パチンコといってもスロットの方だが、これで生計を立てながら無償で指導をしていた。これだと日本全国、どこへ遠征しても食っていけるからだ。

 ・・・

 ・・・私は、機械に指先を付けて、電磁波を感じ取って判断できた。中の機械の構造を想像しながら、五本の指を台に付けると、出るかどうかわかるのだ。

 これは私だけの感覚のようで、他の選手を連れて行ったときに教えてやったのだが「わかりませんよ」と嘆いていた。

 私は指先が非常に敏感なようで、例えばやりを持つだけで、そのやりが曲がっているかどうかもすぐにわかったし、怪我した選手の体に手をかざすだけで、どこが悪いのかもすぐにわかった。

 また一〇〇m日本記録(一〇秒〇〇)保持者の伊東浩司が走っているのを見ているとき、彼の後に黒い羽のような影が見えたことがある。そのとき私は「伊東も、もう駄目だな」とわかった。事実、それからほどなくして伊東は引退した。

 話がオカルトめいてきたが、私は別に宗教も信仰もしていないし、「気」なども信じない方だ。なにしろ親父から「お前は現実的すぎるッ」と怒られたくらいだから。

 しかし実際に見えるのだし、わかるのだから仕方がない。これは私も不思議なのだが、実際に自分ができるのだから、「気」とか、そういうものも本当にあるのかもしれない。

 とはいえ、パチプロで生計を立てるのは、並外れた感覚と根気がいるのでかなりしんどい。よく引退したスポーツ選手は顔つきなど雰囲気がガラッと変わると言われるが、私はあまり変わらなかった。やはり引退後も、プロの勝負師として食っていたからだろう。

 ただし、パチプロといっても選手たちを指導するためにしていたので、これで本当に生活しようと思っていたわけではない。

 本当にこれで食っていこうと思ったら、もっと儲かっていたと思うが、その分しんどかったと思う。私はその頃、室伏広治を見ていたので、時間がきたら、いくらスロットが出ていても、切り上げなければならなかった。それがなかったらもっと儲けていただろう。