虫がこない畑

今までにない職業をつくる

「炭素循環農法」という、植物と微生物の共生関係による農法は、畑に虫もこないし、いいことだらけだそうです。すごくいいですね。

 

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 肥料も農薬も要らないというこの農法では、いわゆる自然農法とも異なり畑にほとんど虫がこないという話を聞き、私も最初は、いったいどのような原理が働いているのだろうかとずいぶん不思議な気がしました。しかし、だんだん理由を聞くにつれ、「なるほどそうか!」と目から鱗が次々と落ちる思いをしました。

 なぜかというと、いわゆる無農薬の自然農法は作物が虫に食べられそうになるのを食物連鎖を利用して防ごうとします。つまり、蜘蛛やトンボなどの、そうした作物を食べるいわゆる害虫の天敵に当たる虫や生物が、これを食べてくれるということなのです。しかし、「炭素循環農法」の畑には、そうした作物を食べる虫を食べる肉食系の天敵、つまりトンボや蜘蛛などがあまりいないという話だったのが不思議でした。それが、その虫たちが少ない理由が、「虫によく食べられるような野菜は窒素分過剰な、人間で言えば糖尿病にかかっているような野菜なのだ」というふうに理解することで、「なるほどそうか!」と腑に落ちたのです。

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 この「炭素循環農法」を実践し、伝えられている方々の話を伺うと、この農法は昔、篤農家と言われる、いわば農業の名人として尊敬されていた人たちが行っていた農法に非常に近いものがあるとのことです。昔は、竹材を簡単に細かいチップにできるような機械がありませんから、畑に入れる植物資材は主に落ち葉、あるいは草を刈ったものなどが用いられていたようです。それによってうまく微生物の活動を盛んにすることで、農薬も要らない立派な作物が収穫できることは、そうした人々の間では、十分に知られていたことのようです。

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 ・・・この農法は現在広く普及している農法と根本的に違うだけに、今までの農業の常識がない人のほうが、むしろ向いているとも言えるわけで、そうした意味でも、今後未経験の人が農業を始めるにはうってつけの農法ではないかと思うのです。

 私がこの農法と出会ったのは、二〇一三年の秋ですが、その情報を私にもたらしてくれたTさんは、それまでまるで農業経験などない小柄な女性でした。・・・そうしたまったくの素人の方でも教わった通りに地面に溝をほり、菌類(微生物)の餌となるような竹チップをはじめとする植物資材を埋め込み、余分な水分がたまらないように水はけを考えた処置を行っただけで、本当に虫が寄り付かず、作物が健康的にすくすくと育っているのですから、これは感動的です。