だましだまし生きるのも悪くない

「だましだまし生きる」のも悪くない (光文社新書)

 

週刊誌「女性自身」の<シリーズ人間>というドキュメンタリー記事がきっかけになって生まれた本だそうです。

ルポライターの方が、香山リカさんに取材してまとめたもので、「はじめに」に、

いささか恥ずかしい内容があったり、やっぱり「自分じゃこんなこと、書かないよ~」と思う描写も多々出てくるのですが、だからこそ逆に、本書は私の著作の中でも類を見ないような内容になっていると・・・

と書いてあるように、新鮮に感じるところがありました。

ここは、そういう香山さんについての話ではありませんが、そうそう、と思って読んだところ。

肉体のコンディションによって気持ちが変わるという話です。

 

P73

 何かを一度決めたところで、状況によっては撤回したほうがいい場合もあります。

 真面目な性格の方ですと、「1回言い出したからには、撤回しちゃいけないんじゃないか」と、自分で自分を追いつめてしまう。

 だから私は、「いいんじゃないですか、前言撤回しちゃって」と言うことがあります。

 すると、すごく気まずそうに、恥ずかしそうに、「先生の前で啖呵切って『いますぐ辞めるしかない』って言ったけど……」と、肩の荷を下ろしてくれることもあるんですよ。

 そのときの身体のコンディションによっても、人間の気持ちというのは、すごく変わるものなんです。

 睡眠時間が少なくなっているだけでも、ふだんとはまったく違うことを考えてしまったり、「歯が痛い」という状況だけで、まったく気弱になってしまうこともある。

 女性だったら、毎月の月経の前後に、ふだんではありえないような落ち込みがある人もいる。

 つまり、人間の気持ちとは、体調で成り立っていると言っても言い過ぎではないんです。

 そんな言い方をすると人間は野生動物のようですが、実際、人間は体調によって気持ちがものすごく変調することがある。

 だからそういう場合は、「その瞬間」の感情で行動しないで、もう少し、感情の揺れ幅の平均を取って判断したりしてもいいのではないかと思いますね。