生きにくさと生きやすさ

マツ☆キヨ

マツコさんの「どうぞご自由に」という姿勢、いいなーと思いました。

P168
マツコ アタシは性同一性障害ではなくて、同性愛者で女装癖の持ち主なんだよね。でも、たしかに、だからこそ厄介だと思ったことは大人になってからある。
 たとえば、はるな愛ちゃんのような人だと、相手に伝わりやすいでしょ?「アタシは心が女の子だったから、それに身体を合わせただけよ」という明快な説明がつく。あるいは、同性愛だけなら「アタシは男なんだけど男が好きなだけなのね」という話で済む。ところが、アタシの場合は、そこに女装癖が加わることによって、「おまえはどこのポジションなんだ?」と言われることになる。

池田 説明がややこしくなるんだ。

マツコ そうなの。で、それをいちいち説明しようとしても、デリケートな話になるでしょ。
 最初は、誤解されるのがイヤだし、そこの説明が難しいなと思っていたんだけど、最近は誤解されることが恐怖ではなくなった。「もう、好きなように解釈してください。アタシはアタシなんで、みなさんがニューハーフと思っているんでしたら、ニューハーフでけっこうですし」とか、そんな感じよ。もう、ほんとに「どうぞご自由に」。
 結局、これはアタシ本人の問題だから。人によっては一生、引きずるんだろうけど、アタシの場合は、もうこれだけ長い年数にわたってその状況と向き合ってきたから、もう、どうでもいいのよね、自分の性癖なんて。だから、ある意味ではみなさんと何も変わらないよ。

池田 そもそも、だいたいの人は自分の性癖をいちいち説明しないしね。

マツコ そうでしょう。だからもう、それについてはふだんはなんとも感じていない。もちろん、それがテーマになれば、そりゃあ、いろいろと言いたいことはあるわよ。でも、日頃から自分の性癖についていちいち言ったりはしないよ。

池田 それだけ、もう、自然体になったということかな。

マツコ まあ、これは後づけなんだろうけど、自分の元来のパーソナリティを考えた場合に、「この状況で生まれてありがとう」という感じよ。これでヘテロセクシャルの男性に生まれてきたら、それはそれで大変でしょ?あるいはもし女性に生まれたりしていたら、どんなにめんどくさい人生が待っていただろうかと思うと、「ああ、これでよかったわ」と思うの。いろんなものをうやむやにできているというか。

池田 そういうふうになっちゃったことによって、生きやすくなった。あるいは、逆に、生きやすくなるために、そうなった、ということかな。
 いずれにしてもそれは、人間の生き方としては正しいと思うよ。自分が楽になるためにどうするかということをちゃんと感覚的にわかっていて、それを選択してきたということでしょう。
 ・・・
 人が生きづらいと思うのは、自分が本来こうしたいということと、世間が自分にどんな役割を与えてくるかということの齟齬が大きいときなんだよね。そうなると、どうしても悩んでしまうわけでしょう。「おまえこういうふうにすべきだ」ということを自分が受け入れられないと、とても苦しい。
 たとえば、自分の頭の中で理性的に「私は男だからこうしなきゃいけない」とか「私はこういう家柄に生まれたからこうしなきゃいけない」と考えるところがあって、一方で、それとは異なる自分の情動があった場合に、両者の折り合いがうまくつかないと、かなり苦しい人生になるよな。
 とくに、いろんな面で「ふつうの人」と違うと、そのズレが大きくなる。それをうまくすり合わせて、落としどころを見つけるというのが、生きやすくするための基本なんだろうね。そのへんのことをマツコさんは長い時間をかけて、うまく合わせてきたんだろうね。
 ・・・

マツコ ・・・「男らしさ」「女らしさ」という言葉があるけど、アタシからしたら、「わかりやすい男」や、「わかりやすい女」で生まれてしまった人のほうが苦しいんじゃないのかなあって思うことがあるよ。
 ・・・つまり、日本国民として歩むべき模範的なかたちというのがやっぱりあるんだ。そこからアタシは端から確実に逸脱していた人間だから、その苦しみを放棄できた。とくに大人になってからは、そのことにほんとうに感謝しているのよ。言いわけが簡単にできるんだからね。「だってオカマだもん!」というひと言だけでもいろんなものから逃げられるもの。