時間を疑う

コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線 (朝日新書)

 あけましておめでとうございます(*^-^*)

 この本であと印象に残ったのは、この坂本龍一さんへのインタビューでした。

 

P187

―坂本さんは以前、「音楽の力」という言葉が嫌いだとおっしゃっていた。いま再び「音楽の力で一つになろう」というような雰囲気も出てきています。

「僕にはよくわからないんですよね、そういうことをやろうって言う人たちの気持ちが。僕も今回、武漢とか中国の人たちに向けてライブ配信を二つほどやって、反響が多くて、ありがたいと思った。たしかに、先が見えない状況で、ときに音楽やアートは、少し気持ちを休めさせるというか、砂漠の中の一滴の水になるかもしれない。でも僕は『みんなで頑張ろう』というのが生理的に嫌いなんで。もうそれは生まれながらのもので。まあ、やりたい人はやって下さいと」

 

―今、坂本さんが次に作りたい作品は?

「いま僕が作ろうとしているものは非常に抽象的で、『時間というものは存在しない』っていう考えに基づいた音楽。僕らが常識的に思っている『時間』というのは実際にはなくて、都市や音楽のように人間が勝手に作り上げたものじゃないかという疑問がとても強まってきた。そのようなものは時間以外にもたくさんあるけど、人間はあまり気がついていない」

「人間って、自然にはない自分たちの頭でこしらえたものが現実だと思い込んで、それによって束縛されるというようなことが、ままあるんですね。時間もそうだし、お金や法律も。国だって、空から見ると国境なんてないのに、少しでも越えたら殺すみたいなことやってるわけでしょ。本当に変わった動物だと思いますね。不思議な動物。周りの動物たちはみんな『不思議な奴らだなぁ』と思って見てるに決まってるんですよ。たぶん『早く消えてなくなれ』と思ってるとも思うけど。自分たちの勝手な理屈で自然を壊してるわけだから」

「ただ、大きな津波があったり、ウィルスが来たりすると、非日常的な世界が現れて、昨日までと同じように思考はできないし行動もできない、という時にふと我に返って、自分たちも自然の一部なんだと気づくのだと思います」

 

―坂本さんは近年、氷河の音や雑踏など、自然の音を取り入れることが増えていますが、なぜですか。

「人間の造った音も自然の一部で、楽器の音というのは、現実の音と区別することにあまり意味がないと思うようになった。ノイズとサウンドの二項対立で考えるのはおかしいと思うようになりました」

東日本大震災が大きなきっかけですね。地震津波というのは言ってみればノイズですね。元々自然の素材から人間が作った建物や楽器が、がれきになって自然に近い状態に戻される。自然の方が人間の親分で、人間は自然の一部。そう考えると、人が作った楽器の音にこだわる必要がないんじゃないかと思うようになったんです」

 

―自然の音と、人工の楽器の音の垣根がなくなってきたと。

「垣根もなくなっているんですけれども、むしろ私という人間が作った人工の音を邪魔したいんじゃないですかね。邪魔して、壊してやりたいという気持ちさえ出てきているのかもしれません」