「空」と「色」

現代語訳 般若心経 (ちくま新書 (615))
「空」について、つづきです。

P50
「色は空に異ならず」です。
 しかしそれと同時に、私は「空は色に異ならず」と申し上げたいのですが、これは納得していただけるでしょうか。
 要するに、あらゆる現象には自性がないために、すべては感受する感覚器やその場の時空間に限定され、常に特定の「色」として現れるしかないということです。
 だから「色」を実体視することは問題ですが、同時に虚無的に見ることもない、ということなのです。「色」は常に実相そのものではありませんが、とにかく実相はいつも「縁起」して特定の「色」として顕現するわけです。
 ですから我々には、不完全な感覚機能と脳とで感じる「色」の背後に、「空」という全体性の片鱗を感じとるしか今は方法がありません。
 世尊は、感覚を信じるなと何度も何度もおっしゃっていますが、それは実相の「空」という在り方を実感してほしいからです。感覚が捉え、脳によって表象されたものは既に実相ではない。それを世尊はわかってほしいのです。・・・
 ・・・
 我々が知覚するあらゆる現象は、空性である。つまり固定的実体がない、ということですね。
 それならその逆の「空即是色」はどうでしょう。
 これはさっきも申し上げましたが、「空」であるが故に「縁起」し、あらゆることが現象してくる、ということです。