「色」とは

現代語訳 般若心経 (ちくま新書 (615))
「色」の説明のつづきです。

P39
 じつは先ほど紹介したルーパ(=色)は、サンスクリットパーリ語に共通の言葉なのですが、「形あるもの」という他にもう一つ、大切な意味があります。
 それは「変化するもの」「壊れるもの」という意味です。
 このことは、ルーパと共通の語源をもつパーリ語のruppatiという動詞に「変化する」「壊れる」という意味があることからも想像できるでしょう。現在ではこの二つの言葉の語源的関わりを否定する説もあり、語源学的には複雑であるものの、少なくとも世尊がルーパをそのように捉えていたことは経典からも明らかです。『阿含経』相応部には「壊れる(変化する)ゆえに色と呼ばれる」とはっきり書いてあります。つまり世尊は、物質とは「変化するもの」「やがて壊れるもの」と理解されていたのです。
 ですから仏教的なモノの見方をまとめるなら、あらゆる現象は単独で自立した主体(自性)をもたず、無限の関係性のなかで絶えず変化しながら発生する出来事であり、しかも秩序から無秩序に向かう(壊れる)方向に変化しつつある、ということでしょうか。
 「三法印」と呼ばれるお釈迦さまの言葉に直せば、これは「諸法無我」「諸行無常」という事態です。無限の関係性のなかで生起するから「諸法無我」、絶えざる変化の中で、ですから「諸行無常」です。
 ちなみに「三法印」の残りの一つは、「涅槃寂静」。これは今から申し上げる「般若波羅蜜多」が実現すれば煩悩の炎も消え、永遠なる安らぎが訪れるということです。